第14話 手術
10月は、いよいよ、エリの手術の日が迫っていた。
エリの婦人病は、手術を必要としていた。
それは、よくなるための手術だった。
術後、2年間止まっていた無月経が治る見込みがあると医者は言う。
内視鏡によるもので、大きな手術では、ない。
失敗することも、命の危険があるものでもない。
僕たちは、食べることに一生懸命になった。
商店街の食べ歩きや、一杯1000円もするかき氷、
おしゃれなカフェや街中の食堂にも行った。
食の世界は広い、終わることはない。
エリは普段はお米ばかりの食事だから、パンを食べたがった。
僕たちはいろんなパン屋巡りをして、楽しい時間が過ぎて行った。
そして、エリの誕生日。僕たちはまたホテルにいた。
エリは、手術の直前だった。今日も病院が終わってからのデート。
僕たちは、初めて記念写真を撮った。
そう、僕たちは、W不倫だった。だから、思い出は心の中にだけ。
証拠を残せない。どんなに楽しくても。
メールも消去、写真も撮れない。手紙も、捨てなくてはならない。
嘘も必要。
僕たちには、制約が多い。
だけど、この日、彼女は写真を撮ることを望んだ。
その甘美な時間は忘れられない。
一枚、一枚、大切に写真を撮った。
今、この瞬間。美しいエリの姿を永遠に残して置きたい。
自然と、そう言う欲求が湧いてきた。
だけど、だめだった。僕は、
そんなことを望むべきじゃなかった。
僕は、エリのことを、永遠にと思い始めてしまった。
僕は客観性を保つべきだった。
カウンセラーであるべきで、患者に引っ張られてしまうのは、
ルール違反だ。
僅か8ヶ月で、僕は、エリ専門カウンセラーとしての立場が危うくなった。
8月の僕の誕生日。
最高のセックスをしたと思っていた。なのに、
この日はさらにその上をいっていた。
人はなんて愚かなんだろう。禁じられた行為は、互いを興奮させた。
僕たちは、汗と精液と涙まみれになった。
2日後、エリは入院した。僕は、大学病院に見舞いに行った。
明日の手術を前に、緊張気味の彼女をリラックスさせに行った。
病院のリラクゼーションルームで僕たちは、トランプをして遊んだ。
そのときだけは、童心に返ったように。
翌日、エリの手術は行われた。
僕は、会社を早退し、エリの元に駆けつけた。
エリは、酸素マスクをしていた。
弱々しい彼女の姿に、僕は、泣かずにはいられなかった。
彼女は酸素マスク越しに言った。
「きてくれたんだ。ありがとう。会いたかった。」
僕は強く、彼女の手を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます