第9話 涙
エリ。ごめん。もう、僕はどうしたいいのか分からない。
僕にできることはただ君に温もりを与え、隣で泣くことだけ。
エリは、離婚すること。
自分の身体を治すこと。
僕と新しい人生を歩むことを決めていた。
僕も、できるなら、そうしたい。
エリは、最近、落ちる回数が徐々に増えてきた。
一緒に温泉に行ったり、桜をみたり、食事に行ったり。
エリはよく食べるようになった。食べているときのエリは
とても幸せそうだった。
「食べることは生きること。」
彼女は確実によくなっている。
笑顔も増えた。
なのに、夜、ホテルに行くと、落ちることがよくあった。
昼間の明るい彼女とは違う、夜の彼女は、僕の予想を上回る。
その日、僕は生涯忘れることが出来ない、事実を知った。
エリは、ビジネスホテルの椅子に腰掛けている。
エリは、何かを伝えようとしている。
僕は、「エリが話したいなら聞くよ。」と
いつもみたいに促す。
エリは言った。自分の過去を。
旦那(当時は彼氏)の子供を堕した過去を。
それは一度だけじゃなかった。
20代で、三度も。
理解できなかった。
エリは、自分が母親になる自信がない。という。
なら、避妊するべきじゃないか。旦那もだ。
意味が分からない。
僕には娘がいる。目の中に入れても痛くないほど可愛い娘が。
育児は素晴らしい。赤ん坊の可愛さ。
苦労も厭わない。子供の成長は素晴らしい。
僕は、運動会でもお遊戯会でも、必ず泣いた。
「命」
それ以上に大事なものなんてない。
僕はその場で泣いた。声をあげて泣いた。
無理だった。僕には我慢できない。
大好きなエリが、三つの命を自ら絶ったのだ。
でも、僕は決してエリを責めないし、軽蔑もしない。
それは過去のことだから。
そして、これがエリが僕を試している行為だからだ。
僕に求められていることは、受容だった。
僕は「罪を憎んで、人を憎まず」であるべきだった。
これで、無月経、腫瘍、精神疾患も、合点が行く。
一体どこで、間違えてしまったのか。
エリ、幼い頃の君が、将来こんなことになるなんて、
僕は思いもしなかった。
僕が50m走を走る前に、君を見たとき、目があったね。
君は、声を出さずに「ガ・ン・バ・レ」と言ってた。
僕たちは、あの時、両思いだった。
痛みが、僕の胸に広がった。
どうしようもない痛みが。
もう、僕たちは子供ではいられない。
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