第8話 葛藤
エリ、君はどんどん先に進んでいくね。
僕は、ダメだ。君みたいに進めない。
エリとの交際には、強い忍耐力と、自制心が求められた。
一般に言う不倫というものが、僕にはわからないけど、
きっと、対等なんてない。
どちらかに主導権がある。
僕は、仕事をして、疲れて、帰る。
妻の目を盗んでエリにメールをする。
娘と遊び、寝かしつける。
僕は家に帰ると、その時間を全て娘のために使う。
娘は可愛い。
この春、娘は小学校に上がった。
罪悪感は常にあった。
自分が社会的に良くないことをしていること。
それが明るみになった時、全てを失うこと。
そして、自分が娘のそばを離れるわけにはいかないこと。
妻には、娘を養育できるだけの能力が欠如している。
妻は、片付けができない。
家の中はいつもぐちゃぐちゃで、足の踏み場がない。
妻は料理もしない。
僕は結婚してから妻の手料理を食べたことがほとんどない。
妻は、僕のカバンを漁る。
お金がなくて、浮気なんてできないのに。
妻は、僕に暴言を吐く。
セックスレスなのに。
妻は、お金が貯められない。
自分のストレスを、感情をコントロールできない。
だから、娘は僕に懐いている。
僕が、この家の理性だった。
妻もエリも一般的には、メンヘラだった。
だから、僕は、自分に都合のいい理由をこしらえらた。
僕がしていることは、「人助け」だと。
妻には、お金。育児で。
エリには、男として、幼馴染としての思いやりと、
精神的な安息、カウンセリングを与えた。
では、僕は何を得ているのだろう。
僕は、どうしたらいい。
エリは、このまま放って置いたら、死んでしまう。
「助けて」って心の声が聞こえているのに、見殺しにできるか。
幼馴染を見殺しにして、娘に胸を張れるのか。
僕は、例え社会的に間違っていても、人間として正しい、
自分が正しいと思う道を歩むことが、
娘に胸が張れると考えた。
言い訳かもしれない。
でも…。
例え、世界中が「間違っている」と非難しても、
僕は、目の前の女を守りたい。
エリを救いたい。
それが、罪だというなら、その罪を負うしかない。
自由と責任。
それが大人として生きていく義務だから。
僕は泣いてばかりいた。
娘の姿を見ても、エリを見ても、震災の映像を見ても。
たまらない。
世の中にはなんて悲しいことが沢山あるのだろう。
でも、まだ、僕はこの時、もっと悲しいことがあるなんて
想像もしていなかった。
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