第5話 MRI

エリの身体は、ボロボロだった。

僕は病院に行くことを勧めた。


彼女はもう2年間も生理がきていない。「無月経」だった。

体重は40kg。身長151cm。

いくら身長が低いと言っても痩せすぎだ。

低血圧で、下が30から70。脈拍は50。基礎体温は35度。

病院に行くと、卵巣に腫瘍があると言う。

MRIをとることになった。


大震災から3日後、

僕たちはラブホテルにいた。


こんな時にこんなところにいる奴の、気がしれないだろう。

互いに家庭があるのに…。


僕たちは、所謂、危機的状況を愉しんでいたのかもしれない。

釣り橋効果と言う奴かもしれない。

ただ、僕は3日間、被災地に行くと、一日休んでは、また被災地に行くという生活をしていた。

いつ、危険な目に合うかは分からない。


その晩僕は、衝撃的な事実を知る。


エリは、クラス会の一ヶ月前に、自殺未遂をしていた。

実家で首吊り。

僕は想像した。糞尿を垂れ流して死んでいる彼女の姿。

目の前にいる、可愛い女の子の身体が死体となっている姿。


幸いにもロープが外れて、彼女は生き残った。

だから、僕と再会できた。


僕は、彼女が言いたいなら、聞く。

だけど、何一つとして質問はしない。

セラピーやカウンセリングを独学で学んでいた。

患者の感情を解放し、寄り添う術を知っていた。


でも、一人の男として、また、幼馴染として、初恋相手として、

僕は、なぜそんなことをしたのか、

どうしてクラス会に来たのか。

今、僕と居てどんな気持ちでいるのか

知りたかった。


僕にできることは限られて居た。

僕は、明日からまた被災地に赴く。


エリが窓際に立つだけで、僕は飛び降りるのではないかと不安になる。

余震が続く。不倫相手とラブホテルで死んで居たら、家族は悲しむだろう。


僕たちは多くのリスクを背負っている。

一緒にいるだけで、周囲を裏切っている。

互いの気持ちだけじゃどうしようもない。現実。


その日、僕たちは、信じられない程、長い性交をした。

もう、これが最後かもしれない。もう会えないかもしれない。

互いの気持ちが高揚していた。


僕は、彼女の中に入ってから、5時間もの間、ずっと彼女の中にいた。

僕たちはできる限り繋がっていたかった。


人生で、こんなにも大きな快楽があるとは知らなかった。

脳からは快楽を知らせる伝達物質が出続ける。

それは麻薬に近いのかもしれない。


五感がフル稼働する。汗も、涙も、全ての限界が向かえたころ、

僕たちは離れ、

そして、僕は再び被災地へと戻った。

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