第4話 3.11
とんでもない。
自分の目の前には、変わり果てた世界が広がっていた。
僕は仕事で東北の被災地にいた。
エリは安全な首都圏にいる。
僕は泣いてばかりだった。
変わり果てた景色、被災地の人々は、日常が奪われた。
未来が見えない。
弱いものが、悲壮の中、何とか生きている。
福島でメルトダウン。水蒸気爆発。
初めて、日本の危機、生命の危機を感じた。
僕の靴からは、微量の放射能が出ていた。
被災地に訪れたことがない者は、報道の裏側を知らない。
僕は沢山の見たくないものを見た。
そして、国は情報を統制していた。
国民にパニックを起こさせないという名目で。
被災地で風呂に入っていた時に、震度5弱の余震がきた。
僕は裸で死ぬのかと、覚悟した。
僕たちの日常に、死の影や、危機は今までなかった。
世界は一変した。
娘はまだ年長だった。
余震に怯えて暮らす我が子のそばに居たかった。
でも、僕は被災地に行かなくてはならない。困っている人の力になれる。それが、現実的に、僕に与えられた仕事だった。
首都圏では、帰宅困難者が徒歩で帰る姿や、計画停電が始まり、電話やメールがつながりにくい状態が続いている。
政府は、情報収集に努め、被災者支援、法整備、各国との連携、そして史上最大規模の自衛隊派遣も行われた。
被災者の為に何が出来るのか。
僕は一人の女性を見た。
役所の職員で、槐(エンジュ)さん。
彼女は3月の寒い時期なのに、白いブラウスに役所のジャンパー一枚と言う薄着で、被災者の為に懸命に働いていた。
風呂にも入ってないだろう。疲労の色が出ている。
被災者たちは、イライラしていた。
人間は自分に余裕がなくなると他人に攻撃的になる。
彼女は、明らかにその標的にされていた。
被災地では日常的に行われている光景だ。
彼女は凛として、強かった。
いつでも、笑顔を絶やさなかった。
希望はどこにでもある。
現実に負けるか否かは、自分が決めるのだ。
僕は勇気をもらった。
エリは震災直後は、精神が安定していた。
僕は、必ず、そのあとに不安定期が来ると予想していた。
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