最終話 追憶

エリ、僕はずっと君を忘れないでいるよ。

君の事は生涯忘れられない。

だって、僕たちはお互いの一部だから。



あれから僕はもう10日も何も食べていない。

身体はゆっくりと死に向かっていく。

仕事は休まない。

熱が出る。意識は朦朧。

帰宅するとすぐに布団に入る。



余りにも異常な僕に、妻はコンビニのおにぎりを渡した。

僕は10日ぶりに食べ物を口にした。

涙が出て、僕は家を出て、実家に帰り、別居を申し出た。


実家で体力は回復した。

でも毎日泣いた。


僕は全てを彼女優先にしてたから。

自分を労われなかった。

いや。違う。

僕は僕を責めていた。

彼女を幸せに出来なかったこと。

せっかく。混じり合った運命を手繰り寄せる事が出来なかった後悔。


僕は、夕食の準備中、音楽を聴く。

その時強烈に感情が爆発し、小学生のように声をあげて泣いた。


そうして、気がついた。その涙は、エリの為に流した涙だった事。


僕が何より心を痛めたのは、

彼女の健康問題でも、

母との別れでも、

ドラッグの過去でもない。



生まれてくるはずだった3つの命。


ただその一点だけ。それだけが何より悲しかった。


僕は生きている。

空腹の辛さも、性交の快楽も、

絶望も、希望も

感じる。


生きているからこそだ。

命は何よりも大切。

生まれてきたから僕たちは短い時でも

一緒に過ごすことができた。


生まれて来なかった命。

生まれる前に殺された命。

生まれないのに作られた命。

もし、生まれていたら。

その命は自分だけでなく、多くの人を幸せにしただろう。


エリに出会った僕のように。

エリのご両親のように。

エリに出会った僕のように。


僕は、僕自身を壊した。

僕を救ってくれるのは、小さな命。

そして、未来だった。


エリ、たった一年足らずだった。

でも、その一年は、僕たちの人生の集大成だった。


20年もの月日をかけて、僕たちのこの一年は輝いたんだ。


まるで、セミのようだったね。


あの日、僕はスケボーに乗って、君は一輪車に乗って、

二人で遊んでいたね。


エリ、ありがとう。

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