第2話 サイン
エリ、僕たちは、共犯者だったね。
昔と一緒だ。
僕たちは、ただお互いしか見えていなかったね。
彼女に比して、
僕にはまだ守るべきものが多かった。
彼女はその体形と同じように、人生の無駄なものを削ぎ落とすかのような生き方だった。
僕は違う。人生を重ねれば重ねるほど、忘れられない大切な思い出が増えた。
子どもとはそう言う存在なんだ。
子どもには未来があり、その子どもと過ごした過去は、親の宝物になる。
僕は妻に対する罪の意識は皆無だった。
妻にとっては無価値な僕でも、エリにとっては、必要不可欠な人間だったからだ。
ただ、娘に対しては罪悪感があった。本来なら娘と過ごす時間を、僕は他人と過ごしている。
それまで、僕は娘中心の生活だった。毎日、お風呂に入れ、絵本の読み聞かせ、寝かしつけをして、土日は図書館か公園に連れていく。
僕には趣味も友達付き合いも必要なかった。家族との時間が何よりも大切だった。
じゃあ、彼女は?
僕の知っている彼女は、笑顔が可愛い、小さくて細い、いくつになっても、少女のままだ。
新婚の彼女がなぜ実家住まいなのか。
なぜ、僕と再会した日に肌を合わせたのか。
どうしてクラスの時にシグナルを送ってきたのか。
クラス会の日、エリはよく笑ってた。
久しぶりに同級生たちや、恩師の先生に会えて、楽しそうだった。
でも、その笑い方が不自然だった。
エリは、声をあげて笑ってた。
教室の中から廊下まで聞こえるような大きなはしゃぎ声。
どうして誰も気がつかないのだろう。
彼女の悲痛な叫びを。
笑顔の裏側を。
僕は心配でならなかった。
気がついているのは僕だけ。
何とかしてあげたかった。
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