初恋 〜20年越しの両想い〜
@kyoushi
第1話 始まり
久しぶりに見たよ。君の笑顔。
変わらないね。君は、あの頃のままだ。
エリは、転校生だった。
小学校4年生の時に、私の隣の席に来た。
家も近所で、三年間毎日一緒に学校に通った。
彼女は小さくて品がいい、お嬢様だった。
僕は、朝から晩まで運動ばかりしてる少年だった。
僕はすぐに恋に落ちた。
彼女もそんな私の気持ちに気づいて、互いに互いを意識し合う、小学生時代の淡い恋だった。
同じ中学に進み、高校は彼女は女子校を選び、別々の道に進むことなった。
僕たちは共有していた。幼い時間を。
僕は24歳、エリは29歳でそれぞれ別の相手と結婚していた。
僕たちは30歳になった。
彼女に出会ってから20年後、4年生のクラス会が行われた。
幹事は僕。
僕はあのクラスの中心的存在だった。
僕は、恩師へのアポ、会場予約、案内状、受付、会計、司会進行、余興の企画や、土産、映像写真記録までを全て一人でこなした。
あの時の彼女は、明らかに病んでいた。
他のクラスメイト達は気がついていない。
でも、僕には分かってしまった。
僕には、なぜか彼女の事は、分かる。
小さい頃の、素のままの彼女を知っているからだ。
僕はクラス会の幹事としての名目を借りて、クラス会のあと、彼女の携帯に連絡した。
その頃の僕は、パートナーとの関係に思い悩んでいた。
2年前、僕が28歳になった年、結婚4年目から、妻は突然、妻である事を放棄したのだ。
「もう、愛してない。あなたの子どもは産みたくない。」
妻は弱い人間で、自分に甘く、人には厳しい人間だった。
3歳の娘が熱を出していても、夜中まで遊びに出ていることもあったし、自分もフルタイムで働き、僕の年収の9割を自由に使いなが
ら、貯金はゼロだった。
だからといって、僕は浮気することはなかった。そんなお小遣いも貰ってない。
毎日文句を言われ、好き勝手にしてる妻には意見も出来ず、愛情も貰えず、ただ働いてお金を貢ぐ、奴隷のような生活を送っていた。
下心はなかった。
ただ、困っている幼馴染の力になりたかった。
その背景には、日々満たされていない自分を少しでも必要としてくれる存在を求める気持ちがあった。
彼女は私の誘いに乗って、夕食を共にする約束をした。
そう、彼女はいつだって私の誘いを断らない。高校生のときも、10年前のクラス会の時も。
なのに、私はエリからの誘いは断ってきた。自分に彼女がいるときは、無下にしてきた。
僕がそんなに風に気を遣わない女性は、生涯でエリだけだった。
エリは無条件で、僕の事を分かってくれる。
そう思ってた。
その思いは、彼女も同じだった。彼女がクラス会で、他の誰にも気がつかれない程の、僅かなシグナルを受信したのは僕だけだったから。
僕たちは都心のイタリアンバーのカップル席にいた。
話しは尽きない。時間はあっという間に過ぎた。
僕は自分の気持ちを素直に伝えた。
「エリが、困っているなら力になりたい。僕は昔からずっと君が好きだよ。」
バーを出たのは23時頃だった。
まだ終電には間に合う。
僕は彼女に聞いた。
「どうする?」
彼女は言った。
「まだ一緒にいたい」
僕たちは。シティホテルに入った。
部屋はツイン。
僕は先にシャワーを浴びる。
次に彼女が入る。
シャワーから上がった彼女はバスタオル一枚だった。
初めてみる彼女の身体は、あまりにも薄すぎた。
僕はほぼ裸の彼女を見ても、性的な興奮はなかった。
彼女との性交を想像出来なかった。まだそう言う感情が生まれる前に出会い、プラトニックな恋をしていたからだ。
僕たちは一つの布団に入った。
僕は飢えていた。人肌に、温もりに。
20代後半でセックスレス。一方的に夫婦関係は解消されたからだ。
僕はエリに腕枕を申し出た。
エリは応じる。
自然と二人は唇を交わす。
でも僕の下半身は熱くならない。
普段なら有り得ない。緊張していたのかも知れない。
エリは僕を導いた。
まるで、懇願するかのように。
僕は、躊躇した。
それは僕たちが越えてはならない一線を越えることを意味していたから。
僕たちは繋がった。
二人の間には、何の隔たりもなかった。
今にも折れてしまいそうな裸体の彼女は、泣いていた。
人生初の朝帰りをした僕は、玄関に蹲り、声を立てずに涙した。
僕たちは始まってしまった。
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