09話.[気に入らないわ]
「気に入らないわ」
明らかに浮かれていやがる。
関係が変わった後でも来てくれているが、なんか気に入らない。
気に入らないから恵を拉致ってきてしまった。
ま、本人は「なにか用があったんだよね?」なんて言って楽観視しているけど。
「露骨に態度を変えんなって言ったわよね?」
無茶なことを言っているのは分かっている。
だって恋人が相手のときと同じぐらいのテンションでいろって言っているんだから。
「ごめん……」
「……わ、私の相手もしなさいよ」
「うん、それは大丈夫だよ、香帆もちゃんと優先するよ」
うぐっ、なんか胸が痛くなってきた。
……恵は自由に言われても怒るということをできないから多分損ばかりする。
鈴みたいにすぐ感情的になるのも問題だけど、見ていて不安になるのも確かだった。
「なんか食べに行かない? お小遣いを貰っているのよね?」
「うん、あ、お世話になっているからなにか奢るよ」
「余計なこと気にすんな、行くよ」
寧ろ私の相手をしてくれているんだからこっちがなにかしたいぐらいだ。
「うわ、間違えて多く注文してしまったわ」
「あ、じゃあ私もお金を払えばいいよね?」
「そうね」
お金を受け取ってとりあえずはしまっておく。
いま返したところで絶対に受け取らないだろうから仕方がない。
「美味しいね」
「そうね」
クレープというのもたまには悪くない。
それに一緒にいてくれているのは恵なんだから余計にね。
「……あんた的には鈴と行けた方がよかったわよね」
「え? 香帆と行けるのも嬉しいよ?」
「はいはい、誰にでもそう言っていそうよね」
「両親と香帆、それに鈴ぐらいにしか言わないよ」
これから友達が増えたらその人間もそこに組み込まれていくというわけだ。
「美味しかったー」
「はい」
「え? 駄目だよ、自分も食べたんだからしっかり払わないといけないし」
「駄目、これはあんたに普段世話になっている分よ」
お金を胸に押し付けて強制的に受け取らせる。
ただ、
「なにやってるの!」
うるさいのがやって来て、しかもそのうえで誤解されてしまったわけだけど。
「クレープを食べてたのよ」
「な、なんでお胸を触る必要があるんですか?」
「お金を返していたのよ、恵が奢ってくれてね」
むかつくから空気を読んで帰ってやったりもしない。
ただまあ、出しゃばることもしないけど。
「恵、ちゃんと嫌なら嫌って言わなきゃ駄目だよっ?」
「香帆といるのは好きだから大丈夫だよ?」
「嫌って言ってよっ、それ浮気じゃんっ」
「ち、違うよ」
面倒くさい絡み方をされているのに幸せそうだった。
なんとなくこちらもそれを見て嬉しくなったのだった。
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