第7話 壊れたハートのチョコレート

僕が廊下でボーッとしていると


君が友達とやってきて


僕に声をかけたね


君は心配そうな顔をして


僕の顔を覗き込んでいた


君は後ろ手に何か隠し持っている様子で


少し顔を赤らめながらジモジと立っていた


友達は君の袖を引っ張って、


「早く渡しなさいよ」


と言ってグイッと君の腕を握り締めた


君はそおっと隠していた右手を差し出し


黄色いリボンの巻いてある赤い箱を両手で包みながら


 「はい、これ」


と、心の底から滲み出る様な細い声で


僕にその箱を渡したね


僕はその箱を受け取ると


何の事だかわからないままに戸惑いながらも


君にお礼を言ったけど


君は目を伏せめがちにうなずくだけだった


友達から肩を引き寄せられて


そのまま自分たちの教室の方へ駆け足で去って行ったね


友達はちょっとだけ僕の方を振り向いて


片目をチョンと閉じて僕にウィンクをした


僕がその箱の意味を知ったのは


あとでクラスの男子から聞いたあとだった


僕はその頃、学校に行くのが辛くって


休みがちになっていたから


結局君に返事は出来なかったけど


ガリッとひと口噛んだハートのチョコレートは硬くて


僕の手のひらくらいの大きさだから


両手で力を込めてバリッと二つに割って


僕の手の温もりで少し柔らかくなるまで温めた


パリリと口に含んだそのチョコの味は


僕の大好きなビターミルクチョコレートだった

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