第4話 正統派
そのような動きの中で、真究竟真実義大賞を取ったのは、意外にも正統派小説で、時系列的に一つの視点から事象が進行する、或る意味、牧歌的な、歴史的な事件を背景に淡々と進む物語であった。
いわゆる「正統派(Orthodox)」の台頭である。一口にオーソドックス派と言っても、志賀直哉の影響下にある正義派主義、エミール・ゾラやバルザックの影響を受けるエコール・ド・パリ(パリ派)、トルストイやドフトエフスキーの影響下にあるロシア写実主義派、ヘミングウェイ原書愛好派、カミュを至上とする不条理派、フィッツジェラルド主義、ゲーテ派、同じユゴーの影響を受けながらも「原ロマン派」と『レ・ミゼラブル』だけに影響された書斎主義(相当、異論を呼ぶであろう名称だが、筋とは直接の関係がない話が長々述べられる、記述自体も悠々とした、有閑貴族が書斎で安楽椅子に坐ってじっくり読むような思想小説であると彼らは捉えている)などなどである。
彝佐璃佐恒存(いさあきさつねあり)の『定兼賢吉見聞随記』が大賞を取った。大正時代の書生が新しい詩論に目覚めて、大正デモクラシーの怒涛の中を彷徨う物語である。
これを機に、正統派主義は文学倶楽部に留まらず、あらゆる文化倶楽部のモードとなった。絵画では素朴な写実主義などである。かつて、パスカルは「実物をそのとおりに描くと褒められる。画家とは何と虚しい仕事であろう」とか何とか言ったようだが、そのとおりのことが起こってしまった。当然、パスカルの言葉は誰もが知っていたので、それに対する理論武装も行われた。
それこそ何と虚しい仕事であろうか。しかし、人間の営みは皆、その範疇にある。
文藝 しゔや りふかふ @sylv
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