第2話『三尾の何か』
(あれは一体何だったんだ…)
その日の夜、私はあのよく分からない生物が気になってまったく寝つけなかった。
三本の尾に犬よりもはるかに大きい体高…そしてあの何とも言えない動物にはない落ち着いた雰囲気…
考えれば考えるほど分からない。
なぜ襲って来ず、引き返したのか?決して人間に怯えていたようには見えなかった。
(よし、明日あの生物について少し調べてみよう)
そして私は深い眠りについた。
翌朝、いつもの目覚まし音で目が覚めた。あまり寝付きが良くなかったせいで少し体がダルい。
ベッドの上で軽くストレッチをしていると美加が部屋のドアを開け、「旬くん、朝ごはんできてるよ」と迎えにきた。
「うん、わかった」とベッドから足を下ろし立ち上がろうとすると、下半身の筋肉痛がひどかった。
(昨日のあれは夢じゃなかったみたいだな…)
少し身震いしたが、今日は仕事もあったのでとりあえずは考えないようにした。下に降りると美加が遅い!と言わんばかりの顔をして食卓に座っていた。
(朝からめんどくせーな。朝飯ぐらい先に食い始めとけよ)
とも思ったが「ごめんごめん」と作り笑いをし、私も食卓についた。
私達夫婦はテレビでニュースを見ながら朝食を食べることが習慣なので、この日もいつもと変わらずニュースを見ながら朝食をとった。ニュースの内容もいつもと大差なく、くだらないものが多い。唯一驚かされたのは昨日起きた連続殺人の犯人が未だに逃亡中ということだけだった。
「怖いねぇ」と美加が言ったので私も「そうだね。でも日本の警察は優秀だから犯人もすぐ捕まるだろうね」と返し、朝食を済ませ会社へと向かった。
会社までは車通勤なのでわりと早めに出社し、出勤時間まで車の中でゆっくりするのが毎日の日課だ。そしてこの日もいつも通り車中でスマホをいじっていた。いつもはニュースであったりSNSをチェックしているのだが、昨日の今日ということもあり、三尾の生物をできる限り検索してみた。しかしなかなかヒットするものがない。妖怪であったり生まれつき奇形で生まれてきたものなど色々調べたが、私が見た生物はいなかった。
姿形が近いものもすらもいなかったのである。
そしてふとスマホの時計を見ると出勤時間の5分前となっていたので慌てて車内から飛び出し、更衣室まで走った。
更衣室に飛び込むように入ると、「おう神谷、どうしたんだ?いつも早めに来ているお前がギリギリに出勤なんて」
と既に着替えが済んだ同期の日野が言った。
「いやー、車の中でぼーっとしててな」
「お前がぼーっとするのなんて珍しいな!」
日野は少し驚きながら笑った。
以前日野から聞いたのだが、私は職場の皆からクールでしっかりしたヤツという印象があるらしい。
だから日野もぼーっとしてて遅刻ギリギリだった私を見て驚いたのだろう。
思わず口から三尾の生物の話が出そうになったが、まだ何も手掛かりが掴めていないのでグッと堪えた。
(もしかしたら何かの見間違いかもしれない)
手掛かりがまったく掴めていない現状ではそう思うしかなかった。
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