第8話
それから数戦を経て、わかったことが一つある。
アインは強いということだ。もちろん相手が雑魚なので単純な力量は不明だが、とにかく手堅い。良くも悪くもセオリー通りというか、安心して前を任せられるというのがアインに抱いた印象だった。
「──ハアッ!」
今回も、後ろに一匹も漏らすことなくアインが魔物を叩き切る。
もはや俺は時折援護こそはすれど、ほとんど見ている観客のようだった。
「よし、今日はこのくらいにしておくか。層を上がってきた疲れもあるだろうし」
「……ふぅ。了解です。助かりました、リゼルさん」
倒した魔物を軽く漁ってから、アインがこちらに戻ってくる。
結局最初の棍棒ほどによさそうなものは見つからず、初日の成果はあの棍棒だけだった。
「いやいや、俺なんて火の玉ちょっと飛ばしたくらいだぞ」
「火の玉って……まあいいです」
何か言いたげな視線を投げてくるアイン。
だが実際、俺はけん制目的の火の玉を飛ばしただけなのだ。もちろん敵には当たってない。
「ていうか、むしろ意味あるのか心配だったんだが、大丈夫か?攻撃魔法なんてしばらく使ってなかったから狙いも定まらなくてな」
「良かったですよ。タイミングもばっちりでした」
「そうか」
『風の楔』にいたころの魔法使いの援護を見よう見まねでやってみたのだが、どうやらそれで大丈夫なようだった。
まあ、すぐに通用しなくなるのだが。
「んー……攻撃魔法をもう少し練習してみるのもよさそうだな」
なんとなくそう呟く。
すると、思いのほかアインが乗り気な返事をした。
「いいじゃないですか!あと、支援魔法も練習してくださいよー。あれじゃあちょっとしょぼいです」
「おお……ハッキリ言っちゃうんだな」
俺の支援魔法がしょぼいことなんて俺自身が一番理解しているつもりだが、面と向かって言われると少し堪えるものがあった。
「おだててもしょうがないですし」
「そりゃそうだが……支援も攻撃もなんてさすがに無理だろ」
「もしできたら、リゼルさんは何でもできる万能魔法使いですね」
「おだててもしょうがないって自分で言ってなかったか?」
アインの無理難題に、思わず苦笑した。
「やっぱり、現実的に考えたらあと一人──いや、二人は欲しいですね」
「そうだよな。前後二人ずつは欲しいわな」
俺たちがそんな会話をしているうちに、シーナがキャンプの設置を始めていた。
「あの、リゼルさん……これ、どうやって組み立てるんですか……?」
「えっ!これ最新モデルじゃないですか!」
シーナが持ってきたのは俺が普段使っているキャンプハウスで、アインが言った通り最新型のものだ。
「あー、それはだな……」
口で説明するよりやって見せた方が早いと判断した俺は、シーナに説明しながらキャンプハウスを組み立て始めた。
そのキャンプハウスはかなり大きめのもので、最新型の名に恥じない多彩な機能を持つものだ。敵を感知して警報を鳴らしたり、防御壁が張られてあったり、もちろん調理台や就寝スペースも十分に確保されている。
俺は基本的に武器や防具にかかる費用が少なかったので、その分この手のものにはお金を渋らないようにしていたのだ。
「私のなんて、中古のやつですよ」
対するアインのキャンプハウスは、シェア数で言うなら最大手の安さを売りにしているものだった。
「私のなんて、ぼろぼろです……」
シーナのキャンプハウスは……本当にキャンプハウスか?と疑ってしまうほどのものだった。
わかっていたことではあるが、パーティー内でこんなにキャンプハウスの格差があるとむしろ気を使ってしまう。
「まあ……なんだ、寝るまではこっちで過ごすか?」
「いいんですか!?」
俺が気を使ってそう言うと、シーナは俺の言葉に食い気味に答えて遠慮なくキャンプハウスに突っ込んできた。
「やっぱり広いです!私もこんなのが欲しいなあ……」
「まあ、高かったからな」
「うぅ……やっぱりそうですよね……」
シーナに今回支払う報酬金を考えると、シーナには到底手の出せない価格だろう。
「私もまだ手を出す余裕はありませんね……」
気づいたらそんなことを言いながらアインも突入してきていて、中の設備をチェックしていた。
そんなアインの様子を見て、俺はふとある案を思いついた。
「アイン、やっぱ金が足りるなら最新型が欲しいのか?」
「それはもちろんですよ。女の子の憧れです」
「女の子のって……まあそれはともかく、キャンプハウスくらいなら買ってやろうか?」
「いいんですか!?」
俺の言葉に、目を輝かせるアイン。
「まあ、俺の奢りじゃなくてパーティー資金からだが」
パーティー資金とは、文字通りパーティー運用に使う資金のことだ。
大抵のパーティーではパーティー資金を作るようにしている。報酬の一部をパーティー資金として貯金し、例えば今回シーナを雇ったように外部から協力を要請する際や、食料・消耗品の補給といったパーティー全員に関する出資の際に使われるというわけだ。
俺たちもその例外ではなく、パーティー資金は作るようにしようと決まっていた。
「え、でも……いいんですか?それに、まだ貯まってもないですよね?」
「俺だけ良いの使ってるってなると、逆に気ぃ使うんだよ。金に関しては、とりあえずは俺が出して、後からパーティー資金から抜いとくって形にすればいい」
「……まあ、私に損はないのでリゼルさんがいいならいいですけど……」
少し納得していないようなアインだったが、首を横に振ることまではしなかった。
「それで、今アインが使ってるやつはシーナにあげればいい。処理するのも面倒だし」
「えっ!いいんですか!?」
今度はシーナが目を輝かせた。
「ああ……アインが嫌じゃなければな」
「もちろんいいですよ」
「やったー!ありがとうございます!」
やたらと大はしゃぎな様子で喜ぶシーナ。
そこまで喜んでくれると、なんだかこちらもいい気分になってくるというものだった。
結構パーティーに貢献していたはずなのに、なぜかクビになりました。なのでちょうど居合わせたクビ仲間とパーティーを組むことにします。~今更戻れと言われてももう遅い。え?本当に手違いだった?~ @YA07
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。結構パーティーに貢献していたはずなのに、なぜかクビになりました。なのでちょうど居合わせたクビ仲間とパーティーを組むことにします。~今更戻れと言われてももう遅い。え?本当に手違いだった?~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます