第3話
その数時間後、パーティーとして認められた俺たちは、今後の活動会議を開いていた。
「それで今後の活動なんだが、俺はしばらくダンジョンで稼ぐのが一番だと思う」
ダンジョンというのは魔物が住処にしている強大な塔であり、古代に造られた遺跡だとか言われている。
詳しいことは俺もよくわからないが、中はフロアごとに様々な環境で、そこに適した魔物が住み着いている。階層が上がるほど魔物が強くなっていくのが特徴で、世界に十あると言われているダンジョンのうち、最上階まで到達されているのはたった二つだ。
そして、ダンジョンに住み着いている魔物はそのフロアから出てこないというもの一つの大きな特徴だった。
つまり冒険者は、そのダンジョンで魔物を倒して素材を取ったり、どこからともなく現れる宝箱を見つけてレアアイテムを回収したりして稼ぎを得ているというわけだ。
もちろん魔物はダンジョンの外───つまり未開拓の森や山、洞窟といった場所にも生息している。それらの駆除や護衛といった誰かからの依頼をするというのも、大きな仕事の一つであった。
話を戻すが、俺がダンジョンを選んだ理由は至ってシンプルだ。
お互いのことをまだほとんど把握できてない俺たちは、現状個々の実力しか発揮できない。
冒険者としての個人ランクはそれまでの活動履歴に準拠される。俺もアインも今までずっと同じパーティーに所属していたことから、個人ランクも元々所属していたパーティーと同じものだが、あくまでこれはただの目安だ。ギルド側が一人一人の活躍をチェックすることは不可能だが、新規パーティーや既存のパーティーのメンバーが入れ替わった時にそのパーティーの強さを数値的に見るために用意されたのが個人ランクなのだ。
俺の場合で言えば、『風の楔』はSランクパーティーであり、そのメンバーも比較的最近加入した一人を除いて他は全員Sランクだった。
しかし、だからと言って全員が同じような強さなのではない。当然パーティーに対する役割がそれぞれあるし、もし他のパーティーに所属していたら個人ランクもB程度で止まっていただろうと思われる人もいるというのが現実だ。
そんなわけで、俺たちは二人での実力というものをわかっていない。
そんな状態で依頼を受けて失敗するわけにもいかないので、ひとまずダンジョンで活動していこうというわけだ。
ちなみにだが、俺とアインのパーティーは暫定的にDランクとされている。俺の予想では、ちょうど適正くらいかEランクに落ちるかといったところだ。さすがに二人でDランクというのは、過大評価気味だろう。
そのことを一通り説明すると、アインも特に反論はないようだった。
「ダンジョンに行くのは、私も賛成です。ですが、ポーターはどうしましょう?」
ポーターというのは、その名の通り荷物を運ぶ人のことだ。
ダンジョンでは獲得した物を換金することで稼ぎを得るため、ポーターは必須ともいえるほど重要だった。
「まあ、ひとまずは一回一回雇うしかないだろ。専属契約ってわけにもいかないしな」
「そうですよね。でも、その……言いにくいんですけど、私今あまり手持ちがなくて……」
ポーターを雇うにも、当然金がかかる。
本来ならパーティー運用資金から出すべきだが、今日結成された俺たちには当然そんなものはなかった。
「まあ、今日の稼ぎから差し引きってことでひとまずは俺が出すしかないな」
「ですが……」
アインは心配そうな顔をしてこちらを伺った。
まあ、無理もないだろう。二人のパーティーでポーターを雇うなんて、過剰にもほどがある。
本来なら六人ほどのパーティーで一人のポーターというのが荷物量の相場なので、ポーターを雇う値段もそれを基準に設定されているのだ。
しかし、俺ならその問題を解決することができた。
「さっきも少し説明したと思うが、俺はパーティーの斥候役を務めてたんだ」
「はい、それは聞きましたけど……」
「だから逆に言えば、意図的に魔物のいる方へ向かうこともできる」
「……なるほど」
口ではそう言ったが、アインはどこか納得していない様子だった。
おかしいな。結構自信あったんだけど……
「えっと、だから、無駄に歩き回る時間も労力も使わなくて済むんだが……」
「わかってます。でも、結局魔物と戦えるのは私ですよね?」
「……そうなるな」
いや、俺だって少しくらいなら戦えるが。なんて、Bランクの前衛相手に言えるわけはない。
「だけど、アインと俺でちょうど見合うくらいの相手を選んで戦えるんだ。……どうだ?」
何がどうだ?なのかは自分でもよくわからなかった。
「……そうですね。そう言われてみれば……悪くないです」
と言いつつも、やはりアインは納得していない顔だった。
……なんだか自信がなくなってきたな。もしかして俺って本当にお荷物だったのか?
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