第7話 開発競争

 森の奥にある試作機が置かれた場所に、アーサーは歩をすすめていた。先ほど、辞令を受けた。第九小隊所属。小隊と言っても、編成は試作機1機のみ。


 タニハラは、新兵をよこすなったんて、と文句を言ってはいたが、正式にパイロットをあてがわれて、嬉しくもあった。何人かのパイロットが、テストとして搭乗はしたが、実戦投入を拒まれた。

 アーサー・シナプスは、技術士官のタニハラをみつけると、きちっと敬礼をして挨拶をした。

 「君は運がいい。こいつのパイロットになったのだから。」

 自信満々にタニハラは、話しはじめた。


 現在、量産機のコードネームは、グリトップ。その試作機のコードネームが、グリフィンである。もともと、グリフィンの開発から、1ヶ月遅れではじまったのが、ペガサスの開発だった。しかし、開発は難航した。特に、オペレーティングシステムに、新しいことを詰め込み過ぎたのが、遅れの原因となった。

 試作機でありながらグリフィンが大きな戦果をあげると、ペガサス計画は縮小を余儀なくされ、さらに量産機の開発が優先された。そうして、グリトップが生まれ、ますます、差が開いた。

 グリフィンは、日本の鎧をつけた感じのデザインである。そのデザインを簡略化したのがグリトップ。西洋甲冑を着ているイメージなのが、ペガサスだった。


 「グリフィンは、帝国のバトルアーマーのコピーだ。」

 タニハラがボサボサの頭を掻きながら、よく口にする言葉だった。確かに根っこの部分は、一緒らしい。それに比べると、一から設計をしたペガサスは、時間がかかり過ぎた。いまだに試作機のままであるのは事実であった。結局、量産化に負けたが、技術チームが懇願して実際の戦場でデータを取ることが許された。

 ペガサスは、3機組み立てたが、結局、2機は解体されて予備パーツとして、この戦場に運搬された。稼働できるペガサスは1機のみとなった。


 コックピットにおさまったアーサーも違和感を感じていた。パネルや操縦桿の位置を確認するが、だいぶ違っていた。士官学校で学んだスキルは、そのまま、ここではいかせない。きっと、帝国の二型に搭乗した方が、しっくりくるだろう。

 彼は元々、戦闘機のパイロットを目指して士官学校に入ったが、突然、新設されたバトルアーマーのコースに転科させられた組の人間だった。

 「これも、受け入れるしかない。」

 コックピットでアーサーは、試作機に電源を入れた。半球スクリーンになっている。ちょうど、プラネタリウムを見ているような感覚である。グリトップは、前面と側方に平面なスクリーンがあるだけだった。連合の機体には、照準器がついているのが、普通である。しかし、このコックピットには、それらの装置がない。替わりにジョイスティックで操れる照準が最新スクリーンに表示された。

 はじめて大地に立つが、全くブレがない。むしろ、気持ち悪いぐらい滑らか動きだった。最新のAIが補助をしているせいで、自分で操る感触が少ない。違和感の正体に、アーサーは気付いていた。

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