第3話 帝国の事情

 さかのぼること1ヶ月前。

 帝国の人事異動としては、異例だった。諜報機関出身の士官が前線への異動を命じられた。しかも、地球の最前線だ。

 ミハエル・シュナイダーが赴任したとき、戦場は膠着状態が続いていた。茶色の髪の毛は癖っ毛である。身長は、帝国軍では真ん中ぐらいであり、細身である。30才手前で、少佐というのは、出世の方に入る。帝国に人材が少ないので、功をあげれば、簡単に出世できるのも事実だった。


 「まずは、情報だな。連合軍側の現地調達をしているはずだ。そこに諜報員を入れて情報をとる。」

 情報が一番の戦力であることを彼は知っていた。何せよ、諜報機関では、それを商売にしていたのだから。そして、この戦争で帝国軍が負けることも、予知していた。なぜなら、それらの情報を集めていたのが自分だったからである。この最前線では、できるだけ時間稼ぎ、帝国が降伏するのを待つ。それが、シュナイダーの基本戦略だった。


 バトルアーマーを整備している作業員にシュナイダー少佐は声をかけた。

 「この機体を赤く塗れないか?」

 「赤ですか?できますが。ちょっと待ってください。在庫を」

 整備兵は、質問に答えながら塗料の在庫を調べはじめた。仕事が増えるのは、嫌だが、命令とあれば仕方がない。

 バトルアーマーは、人型のロボット兵器である。帝国軍が最初に開発に成功した。特に近接戦闘では、無類の強さを発揮した。人間の身長の十倍、それがバトルアーマーの大きさである。初期の一型の活躍のおかげで帝国は、有利に作戦を遂行できた。今、戦場に配備されているのは、ほとんどが二型である。通常機は、深緑の機体であるが、リーダー機を赤く染めることが帝国では、珍しくなかった。

 連合軍も開発を進めバトルアーマーの量産機を戦場に投入することができるようになった。連合軍の機体は、白を基調としていた。


 赤く塗装されている機体を眺めながら、シュナイダーは熟考を続けた。もし、この戦場で、敵の戦力を削らないと。少しでも、状況をよくするように考えをめぐらしていた。


 商人はたくましい。連合軍の野営地に、色々な物品を持ってあらわれた。当然、食料が中心であるが、電化製品まで持ってきていた。

 「旦那、いろいろと良いもの取り揃えていますよ。」

 その商人達に混じって、帝国の諜報員が活動を開始していた。

 「これなんか、どうです。音楽プレイヤーです。」

 「珍らしいものを持っているな。」

 色々な妨害電波が舞っている戦場では、有線式のものが重宝される。

 「また、戦いですか?」

 「今日の夜中だと。敵に気づかれないように行動するらしい。」

 この段階で敵に情報が漏れているのにと商人に化けた間者スパイは思った。

 「へえ、大変ですね。じゃ、アイマスクも必要じゃないですか?これから、寝るなら。」

 「いいもの持っているな。」

 「そう言えば、知ってますか。帝国軍側に、名うてのパイロットが加入したとか。」

 「ほんとうなのか。」

 「噂ですよ、あくまでも。赤いバトルアーマーに乗っているとか、えーと、名前は?」

 「まさか、赤い弾丸じゃないだろうな。ジェイとかいう。」

 「そんな名前だったような。」

 敵を混乱させるのも、間者スパイの仕事だった。この手の噂は、明確じゃ無い方が広がる。きっと、戦場で赤いバトルアーマーをみたら卒倒するだろう。実際に乗っているのが、誰であろうと。

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