第2話 司令部

 「ブラッドリー入ります。」

 大柄な大佐は、テントの天井に頭がつきそうである。すぐに形ばかりの敬礼をした。彼は、ざっと一同を見回した。奥の席に座っているのが、方面司令官のベイカー准将だった。ベイカーという男は、戦場で功をあげて出世したタイプではない。世当たり上手で出世したタイプだ。司令部を束ねる技量には、疑問が残った。ここ1ヶ月の戦績がそれを物語っている。すでに、第一小隊と第二小隊を失った。


 「恐れながらベイカー准将。なぜ、ここにいらっしゃるのですか?」

 取り巻きの士官達が怒り出した。

 「何を言う、貴様。」

 「方面司令官は、全体を見渡すもの、こんな最前線で指揮を取るのは問題ではありませんか。」

 ある士官は、馬鹿にされたと勘違いして顔を赤くして怒った。

 「おのれ、貴様。」

 「待て、待て。話を聞こう。大佐つづけてくれ。」

 ベイカーは、自慢の口髭を触りながら話した。

 「方面司令官である以上、全体を見渡せる位置に司令部を置くべきです。他にも戦闘になっているところがありますし。」

 「君ならどこに司令部を置く。」

 「ここですね。ここなら、他の戦場とも連携が取りやすい。」

 大きな机に広げられた地図を指差しながら話した。

 「なるほど、では、ここの指揮は?」

 「そのために、私が呼ばれた、と考えています。」

 「確かに、私が最前線で指揮を執るのは問題だ。君の助言に感謝する。」

 命の危険がある最前線から脱するのにこの発言は、渡りに船だった。しかも、このところの負け戦で自信も喪失していた。取り巻きの一人が発言した。

 「彼が言うのも、もっともです。准将、さっそく、準備をしましょう。第三小隊を一緒に連れて行きましょう。」

 ブラッドリーは、大声で笑い出した。

 「何がおかしい。」

 発言した士官が、ブラッドリーを睨んだ。

 「第三小隊を連れて行くのは、愚の骨頂です。司令部を移すのが、敵にわかってしまいます。むしろ、敵にわからないように、隠密行動がよろしいかと。」

 准将は、ゆっくり頷いた。取り巻き達を引き連れて移動を決意した。移動の際に、前線での失敗の責任は、お前がとることを忘れるなと、先程の士官に、釘を刺された。最前線から離れられるので取り巻きの士官達は、顔には出さなかったが、心の中では歓喜した。

 

 これで、ブラッドリー大佐よりも上の階級の者は、いなくなった。ブラッドリー大佐は、小隊を持って行かれなくてホッとしていた。彼は、さっそく、ここ1ヶ月の戦闘データを集めて、分析をはじめた。

 「多分、敵の司令が1ヶ月前に交代しているな。戦闘の質が変わっている。」

 大佐は誰に聞こえるでもなく呟いた。

 准将が使っていたテントを大佐は自室とした。彼はインスタントコーヒーをお供にして分析を続けた。



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