第19話 叙爵

 マーク第二騎士団長との模擬戦から二日ほど経ったある日、僕は王城に呼ばれていた。理由はもちろん爵位を貰うためだ。

 今日までの二日間は特にすることもなく、家で家族のみんなとのんびりしたり、母上達と王都を観光したりなど満喫していた。



「レオー、準備はできたか?そろそろ出発するぞ。」



「お待たせしました。今行きます!」



 父上に呼ばれ、家の前に止めてある馬車に乗り込む。

 しばらく馬車に揺られ、王城に到着すると前回とは違い、父上と一緒の控室へと案内された。

 今回は事前に家でドレスコードをしてきたため、最後の確認として父上と同じ控室へ通されたようだ。



「はい、これで完璧ですね。では、私たちはここで失礼させていただきます。ラルフ様は陛下がお呼びになっております。レオナルド様は謁見の準備が整うまでこの部屋でお待ちください。」



 どうやらこれからは僕一人になるようだ。しかし、特別することもないので出されたお茶や菓子を楽しみながら待っているとどうやら準備ができたようで、謁見の間へと案内された。

 大きな扉を開けると、前回同様のレッドカーペットが敷かれており、僕はそのレッドカーペットを半分ほど進んだところで膝をつく。



「表を上げよ。先日の戦い、大変見事であった。余も楽しませてもらったぞ。あの場でも話したが、レオナルド・コロソフ、そなたに男爵位と金貨100枚を与える。」



「謹んでお受けさせていただきます。」



 その後、もう一度陛下が僕の褒美の理由を説明し、僕は貴族の証拠となる豪華な短剣を貰った。これは位によって飾りが違うらしく、父上の持っているものを一度見せてもらったことがあるが、男爵の持つ短剣とは格の違う装飾がなされていた。

 陛下が話し終わった後、別の件で貴族全員に報告することがあるらしく、僕は貴族たちが並んでいた列の最後尾に並んだ。



「さて、今から話すことはブランク侯爵の処罰についてだ。余と一部の貴族での話し合いの結果、ブランク侯爵は降格とし、子爵位とする。また、罰金として金貨1000枚を収めるように。」



 この言葉に貴族たちに動揺が走る。上級貴族の有力な家だったブランク家がもはや、上級貴族ですらなくなるのだ。

 この場にいたブランク侯爵、いや、ブランク子爵は何も反論することもなく、ただ静かに陛下の判断を聞いているようだった。きっとこの場で反論すれば貴族ですらなくなってしまうことを悟っているのだろう。



「皆の者、静まれ。この処罰はもう決めたことだ。変更はしない。それでよいな、ブランク子爵よ。」



 陛下にそう問われたブランク子爵は、納得していなそうな顔をしながらも



「はっ、陛下のご配慮に感謝いたします。」



 と、感謝を述べた。その回答に陛下は頷き、次の話題へ移るよう、ウォーレン公爵に目線で催促した。



「それでは、次の話題に移らせてもらいます。この話題は私の方から説明させていただきます。」



 そう言ったウォーレン公爵は一息ついてから話し始めた。



「先日の模擬戦において、敗北したマーク第二騎士団長から自主的に騎士団を退団したいという申し入れがあった。王家としては有力な騎士が引退するのは非常に残念なことであるが無理強いはできない。よって、第二騎士団長はこれまで副団長をしていたエレノア・ベレッドが引き継ぐこととする。」



 ウォーレン公爵の報告は後半の方、感情があまりこもっていないように感じたが、きっと気のせいだろう。

 この発表にも貴族たちは驚き、中には悔しいがっている貴族もいた。そいつらはきっと貴族派の連中だろう。しかし、貴族派の大きな戦力は今回の戦いで二人も失ったのだ。しばらくの間はおとなしくしているだろう。

 新しく第二騎士団長となったエレノアという人はどういう人かは知らないが、陛下が決めた人なので貴族派の人間ではないだろう。



「静まれ!今回の報告は以上だ。皆の者ご苦労であった。」



 騒いでいた貴族たちは陛下のその言葉をきっかけに徐々に退場していった。僕は前と同じように別室に案内され、中へ入ると陛下とウォーレン公爵、父上に見知らぬ女性が座っていた。



「よく来たな!まぁ、座ってくれ。」



 陛下にそう言われ、僕が席に着くと陛下は興奮した様子で先日の模擬戦について話してきた。その様子をその他の三人はやれやれといった様子で見守っているのだった。

 陛下の話に一区切りがつくとそこでやっとウォーレン公爵が助けを出してくれた。



「陛下、お話が楽しいのはわかりますが、そろそろ本題に入りませぬか?」



「おぉ、つい話し込んでしまった。では、本題に入るとするか。まずは彼女の紹介からだな。彼女はエレノア・ベレッド。新しい第二騎士団長だ。」



 陛下の紹介が始まると、エレノアはリラックスしていた姿勢をキリッと正し挨拶してきた。



「紹介にあずかったエレノア・ベレッドです。気軽にエレノアとお呼びください。」



 エレノアの見た目は、前世の高校生くらいの年齢で、深紅の髪を腰まで伸ばしている美少女だ。



「レオナルド・コロソフです。よろしくお願いします。それと、僕の方が年下なので敬語は使わなくてもいいですよ。」



「いえ、私は一人の戦いに身を置く者として、先日のレオナルド様の戦いに感動し、レオナルド様を尊敬しました。ですので、敬語を使わせていただきます。」



 どうやら彼女は少々お堅い性格らしい。まぁ悪い意味ではないが。



「それは・・・ありがとうございます。なら、僕をレオと呼んでください。それくらいならいいですよね?」



 前世の感覚で年上に敬語を使われるとなんだか変な感じがしたので、名前だけでも堅苦しい物でなくしようとしたが、



「はい!ならレオ様とお呼びしますね!」



 様を付けてはほとんど変わらないような気もするが、ここらへんにしないと終わらないような気がしたのでもうこのままにしておくことにする。



「二人とも挨拶は終わったようだね。エレノアは聞いての通りまっすぐな性格だから、マークによって歪められた第二騎士団を復興させてくれるはずだ。しかし、一人では辛いこともあるだろう。そこで、レオナルド君。君にも手伝って欲しいんだがどうだろうか?」



「俺の方からも頼む。レオのあの戦いを見ていた騎士たちは多いはずだ。レオが訓練に来ることで騎士たちにも良い刺激になるはずだ。俺の騎士団にもぜひ来てほしいとこだな。」



「そんなことなら大丈夫です!僕の訓練にもなりますからね。」



「お前の訓練になるかどうかはわからんがな・・・」



「僕には対人の経験が少ないですから、訓練になりますよ。」



 父上とエレノアさんに言われて騎士団の訓練に参加することになってしまった。でも、今すぐにではないし、時間がある時にということだから、暇な時に顔を出すくらいの気持ちでいいだろう。



「そういえば、明日は社交界の日だったな。もちろん、レオナルドも社交界に出るんだろう?うちの娘も参加するから、声をかけてやってくれ。先日の戦いのことを聞いて、レオナルドのことを気になっていたからな。」



「私の娘も社交界に参加しますので、声をかけてみてくださいな。と言っても、うちの娘は先日の戦いを見に行ってますからね。自分から話しかけに行くかもしれませんな。」



「ははは・・・わかりました。」



 王都に来てからいろいろありすぎてすっかり自分が王都に来ていた理由を忘れていた。

 それにしても、陛下の娘だから王女ってことだよな。自分から話しかけに行くのは厳しいなぁ。なんて思いながら話を聞き、その日を終えるのだった。



______________________________

【あとがき】

ここまで読んで下さりありがとうございます。

次回ヒロイン登場!!!

ここまで長かった!!!

次回も近々更新する予定です。

次回もお楽しみに!



 

 

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