第17話 模擬戦

  ついに迎えた翌日、戦いの日がやってきた。そして僕は今、決戦の場となる闘技場へ来ていた。家からそのまま来たので家族全員でやってきていた。



「確認が取れました。コロソフ伯爵家の皆さまですね。観客席は上の階となっております。レオナルド様はこのまま控室へご案内させていただきます。」



「了解した。ということで、レオ。お前とはここで一旦お別れだ。俺たちは観客席から応援してるからな。」



「レオ、無茶はしない程度に頑張ってきてくださいね。一番大事なのはあなた自身なのですから。」



 父上と母上をはじめとして、マリア母上やジーク兄上、ウォレス兄上達にも同じようなことを言われた。



「はい!頑張ってきますね!」



 僕はそう言って受付で案内してくれた人に連れられて、控室へ向かった。控室には誰もいなかったので、相手のブランク侯爵や第二騎士団長とは違う控室なのだろう。

 しばらく待っていると、先ほど案内してくれた人がやってきた。



「試合はまだ始まりませんが、今から国王様がご挨拶されます。ご拝見なさりますか?」



「ぜひ!ここで待っていてもつまらないですしね。それにどんな所で戦うのか見ておきたいですし。」



「では、ご案内します。しかし、レオナルド様はまだステージに上がれませんので、ステージ袖からになりますが・・・」



「それで、かまいません。」



 ステージ袖に到着すると、ちょうど国王様の挨拶が始まった。



「皆の者、今日はよくぞ集まってくれた。今日は第一騎士団長の三男であるレオナルド・コロソフと第二騎士団長ロッド・マークの模擬戦を行う。皆、結果は見えていると思っておろうが、レオナルドはオークの上位種を含む群れを一人で殲滅したという報告を受けている。もちろん、それを見たという証言も上がっているが、信じられんのが現実である。そこで行うのが今回の模擬戦だ。今回は闘技場の魔道具を使うため双方、全力を尽くして頑張って欲しい。」



 国王様は挨拶を終えるとステージが一番よく見える特等席へ座った。その周りにはウォーレン公爵や父上の姿も見える。そして、少し離れた所に家族のみんなが座っていた。



「レオナルド様、そろそろ試合が始まります。控室で準備をお願い致します。」



 案内の人にそう言われたので、控室に戻り、準備を始める。今回は相手を殺しても大丈夫な結界が張られているので全力を尽くすつもりだ。そのため、昨日の夜に時空間魔法で作り出した空間にこもり、あるスキルを獲得していた。そのスキルとは、



〈創造〉

 魔力を使い、物を創り出すことができる。つくれるものは使用者の想像力による。無からも作れるが、素材がある方がより性能が良い物が作れる。



 このスキルをふんだんに使い完全装備を作っていた。防具は耐久性の高い魔獣の素材を利用し、動きやすいように革装備にしている。また、武器はブラックドラゴンの爪を加工して黒い短剣を作った。

 作った装備を身に纏い、ステージ袖へとやってきた。



「両者、ステージへ!」



 実況の人にそう言われたので、ステージ上に上がった。そこには見渡す限り人で埋まっていた。貴族だけでなく一般の庶民も大勢いる。

 そして向こうからステージに上がってきたのは、チャラそうな金髪の男だった。



「初めまして、レオナルド君。早速だが・・・降参してくれないかな?君のような子供をいたぶっては僕のイメージが悪くなってしまうからね。」



 馬鹿にするような口調で僕のことを煽ってきた。



「初めまして、マーク第二騎士団長。御心配には及びませんよ。あなたこそ簡単に降参をしないでくださいね?」



「ははっ、君も面白い冗談を言うね。僕が君みたいな子供に負けるはずないだろ。まぁせいぜい僕のイメージが悪くならない程度に頑張ってくれたまえ。」



 マークは笑いながらそう言うと定位置へ戻って行った。



「さぁ、闘技場の結界も張り終わりました!では国王様、試合開始の合図をよろしくお願いいたします!」



「両者、頑張ってくれたまえ。それでは・・・試合開始!!!」



 その言葉と同時に僕は全身に今できる最高の身体強化をし、短剣でマークに斬りかかる。マークは一瞬僕を見失ったようだが、足音で判断して僕の剣をガードしようとした。マークのガードが一瞬だけ速く、剣と剣が衝突する。



『ガキィーーーーン!!」



 ぶつかる音と共に何かが闘技場の壁に衝突する。



「な、なんだと・・・この僕が子供に力負けしただと・・・そ、そんなことありえない!仕方ない、本気で殺してやる!」



「来るなら早く来い・・・本気出す前に終わってしまうぞ。」



「ガキが!舐めるなぁーーー!!!」



 マークはそう言うと身体強化をかけ、僕へと斬りかかる。



「遅い・・・」



 その瞬間、血しぶきが闘技場に舞った。



『ドサッ・・・』



「ぼ、ぼ、僕の腕がぁぁぁぁぁ!!!」



 マークの左腕を僕は斬り飛ばした。



「早く立てよ・・・勝負はまだ終わってないぞ。」



「クソがぁぁぁぁ!!!」



 マークが剣をふるってくるが、子供のように剣を振り回しているようにしか思えない。そんな剣を僕が避けられないはずもなく、一撃ももらわずに避けていく。



「なぜだぁぁぁぁ、なぜ当たらない!!!クソ!こんなはずじゃなかった!ガキを殺すだけで簡単に第一騎士団長になれるはずだった!この僕が、あんな奴より第一騎士団長にふさわしいはずだ!それなのにぃぃぃ!!!」



「もう、黙れよ・・・」



 僕はそう言うとマークの残っている右腕を斬り飛ばした。

 こいつは僕にここで負けても後で絶対に何かしてくる。それが家族のみんなに矛先が向くかもしれない。だったらここで・・・



「この結界はどんなけがをしても治るらしいな。だから、腕を斬り飛ばされようとも何も影響はない。」



「な、なにが言いたいんだ!」



「確かに外傷は治るが、それ以外の傷はどうなるんだろうな。」



「な、なんだと・・・?」



「治るといいな・・・」



『ナイトメア』



 僕は闇魔法の上級であるナイトメアを使った。この魔法は相手にとって一番辛い悪夢を見せ続けるというもの。この魔法の怖い所は使用者がどれくらいの期間、悪夢を見せるのかを自由に決められることだ。今回僕は夢の中で、1か月間悪夢を見せるように設定した。現実では一瞬の出来事のため、見ている観客たちには何が起こったかわからないだろう。まぁ、父上辺りにはバレてそうだが・・・



 マークがナイトメアの効果で地面に倒れ、一瞬で悪夢から現実に戻ってくる。顔を上げ、僕を見つけると、



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 悲鳴を上げて気絶してしまった。何が起こったか把握できていない会場全体はその悲鳴でレオナルドの勝利を理解した。



「マーク第二騎士団長、気絶により、レオナルド・コロソフの勝利とする!」



 そう実況が宣言すると、闘技場は歓声で包まれた。5歳の子供があれでも騎士団長に勝ったのだ。誰もが衝撃を隠せないでいた。

 その歓声の中、張られていた結界が解除された。すると目の前で気絶しているマークの両腕は再生し、僕の疲労感も無くなっていた。しかし、発狂して気絶したマークが目覚めることはなかった。マークは気絶したまま、兵士たちに医務室へ連れていかれた。



 しばらくすると歓声は収まり、そのタイミングで国王様が話し始めた。



「大変すばらしい試合であった。まさかあれほどの動きをするとは余も驚きを隠せん。しかし、これでレオナルドが魔獣の群れを一人で殲滅したことに納得がいったな。ブランク侯爵よ。そなたはラルフが虚偽の報告をしたと余に言ったな。しかし、今の試合でラルフの証言は確実な事実と判明したぞ。この落とし前、どうつける?」



 国王様にそう問われたブランク侯爵は顔を青ざめ、何も答えられずに、ただうなだれるだけであった。



「まぁ、このことは後でしっかり話し合うこととしよう。では、レオナルドよ。そなたの試合、とても有意義であった。そして、そなたがウォーレン宰相を救ってくれたことも事実と証明された。よって、昨日の宣言通り、レオナルド・コロソフを男爵位とし、金貨100枚を褒美とする。文句がある者はおるか?」



 この問いには貴族派も反対することはできなかった。発言すれば、自分の身が、地位が危ういことになると気づいていたからだ。



「いないようだな。では、レオナルドよ。後日、城の謁見の間に来るように。これにて解散だ。」



 国王様が解散を宣言すると、興奮も覚めぬまま、観客たちは闘技場を後にした。



「レオーーーーーーー!!!」



 名前を呼ばれたので声のする方へ向いてみると、母上達が手を振っていた。その後ろでは国王様とウォーレン公爵、父上がこちらを見ていた。



「今行きます!!!」



 僕はそう言うと家族たちのもとへ、駆けだしたのだった。



______________________________

【あとがき】

ここまで読んで下さりありがとうございます。

いやぁー。遅くなってすみませんでした!

テストも無事?に終わったのでまた更新を再開していきます。

次回もお楽しみに!



 

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