第3話
「セチアと申します。よろしくお願いします」
転校生の設定かよ! 心の中でツッコミを入れながら黒板に名前を書くセチアを眺める。
しかも苗字は俺の苗字『ユキノ』を書いている。皆から、あらぬ誤解を受けそうである。
セチアが席に着くと案の定、彼女とどういう関係なのかと周囲から質問を浴びせられた。
彼女は外国人のイトコなんだ、と苦し紛れのウソをつくと皆はアッサリ納得してくれた。
納得してくれるなんて……と思いつつ、同じく質問攻めされてたセチアのほうを見ると。
セチアは人差し指をクルクルと楽しげに回していた。魔法を使ってまた洗脳したな……。
洗脳済みのクラスメイト達と午前の授業を受け、昼食を食べ。そして午後の授業を終え。
下校の時間になった頃には、体力低下の魔法のかかった俺は心身ともに疲れ果てていた。
やっと帰れる……。体力低下のハンディ込みの学校生活は数日目だが、全然、慣れない。
「セイヤ、待ってください」
フラフラと玄関に向かっていると、セチアが「一緒に帰りましょう」と声をかけてきた。
わかったよ、と返すとセチアは嬉しそうに目を細めた。学校はとても楽しかったらしい。
今日一日だけで色々と新鮮な楽しい体験をしたのだ、と彼女は事細かに報告してくれた。
楽しくて良かったな、と言い切ると。セチアは何かを感じ取ったのか、俺のほうを見た。
「……セイヤは、学校は楽しくないんですか」
申し訳なさそうな顔でセチアは尋ねてきた。そんな、申し訳なさそうな顔すんなよ……。
学校が楽しいと思えてないのは俺の問題だから。セチアは学校、楽しめよ。そう伝える。
「ありがとうございます。セイヤ」
隣を歩くセチアは、学校の話題から今日の夕飯が何かなど学校以外の内容に変え始めた。
俺を気遣ってくれてるのか。優しい娘だな。柔らかい夕方の光がセチアを照らしている。
俺は小さい頃に、自身の名前のせいで同級生たちから軽くからかわれた。いじめられた。
ユキノセイヤだって! クリスマス野郎だ! そんな感じのたわいもない内容だったが。
小さな自分にとっては、それらの言葉たちが呪いのように自身の身体にまとわりついた。
それらの軽いからかい、いじめも昔の一時期あったというだけで今は何もないのだけど。
それでも、何かの瞬間に思い出してしまうのだ。小さな子供だった時に感じた悔しさを。
俺の名前は『ユキノセイヤ』。漢字で書くと『雪野聖夜』。俺は自分の名前が、嫌いだ。
そして。そんな自分の生まれたクリスマスが、嫌いだ。
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