第52話 これは武者震いではない
「ここがメインになる会場だね」
「ふ、ふーん……ここがねぇ」
ベルさんの解説を受けながら、私はゆっくりと周囲を見回した。
ゆっくりだなんて随分余裕そう? ふ、違うな。説明しよう。私、ルセリナは平静を装っているが、実は内心とてもびびっていた。目なんて完全に泳いでいる。
「大丈夫?」
「大丈夫、です」
私はそつなく返す。
でももちろん嘘。大丈夫な訳がない。
だって見てくれ。人、人、人。会場にはこんなにも人がたくさん。花嫁選びを一目見ようとする一般客から自分達のような参加者、場を盛り上げるパフォーマー、ありとあらゆる人が集まっているんだぞ。恐怖以外の何者でもないだろう。
「ごきげんよう」
「ああ素敵なお嬢さん方、ご機嫌麗しゅう」
フワッといい匂いのする美人な女性に気軽に挨拶するベルさん。場慣れ感がすごい。
それに比べて何だ、私は。この陽キャの集まりに紛れて、溶けて消えてしまうのか?
「今回一発目はドレスアピールからみたいだね」
しかもよりにもよっていきなりヘビーなのからきたな。あれだろ、要するに容姿の審査。
会場見てれば分かるけど、みんなあからさまに高スペック。そんな中、付け焼き刃のださメイド、ルセリナさんが生き残る未来が見えないんですけど。
私はサバンナに一人投げ出された草食獣か何かか?
「やることはあのステージに数秒登場するだけ」
「はい……」
「ルセリナちゃんなら問題なく通過すると思うよ」
「そうですか」
「だから今回は楽しむつもりで……」
「……」
「ルセリナちゃん?」
「…………あ、はい」
「もしかして、緊張してる?」
「…………」
緊張? 私が?
屋敷の食料の余り物を持ち帰ることに躊躇しないのに?
パーティゲームの景品をこっそりすり替えようとするのに?
そんな人間が緊張?
「ち、違いますよ。びっくりしているんです。わー凄い人多いなーキラキラしてるなー」
「昨日のパーティもこのくらいの人数いなかった?」
「うっ」
いたかもしれない。
「しかもキラキラって、レイズの屋敷もこんな感じじゃなかった?」
「ううっ」
そうだった、よくご存知で。この程度の装飾なら割と見ていた気がする。
「やっぱり……緊張してる?」
「……」
でもなるべく今は隙は見せたくないんだよ。例え指摘が事実だったとしてもさ。
「いえ、大丈夫で……」
「ベル」
「おや?」
げっ、この声は。
「やあ、レイズ!」
やっぱりレイズ様だったか。
よりによってこのタイミング。凄い。相手の弱いところに的確に現れる才能。さすが悪役令息になるべき男。
「ベルがいるって事は、もしかしてコイツは……」
気付かれた。
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