第53話 雑な大ウソ発動注意報
なんて事だ。
ただでさえ、花嫁選びの一発目が容姿審査って聞いてテンションダダ下がりだっていうのに、まさかこのタイミングでこの男が現れるとは。
レイズ様、空気を読まずにご登場!
ああなんかこっち見てる。
「ベルがいるって事は、もしかしてコイツは……」
バレるのも時間の問題か。
とりあえず下向いて目は合わせないようにしておこう。気が変わってこれ以上触れないかもしれないし。あと、ついでにベルさんの後ろに隠れてよう。こそこそ。
「(おや、どうしたんだい?)」
「……」
※以下小声
すまない、ベルさん。頼むから空気読んでくれ。今はこの男と関わりたくないんだよ。
だってどうせね、私のこと馬鹿にするに決まってるもん。「服に着られてる」とか、「所詮その程度」とかとっても想像しやすい暴言吐くよ。聞かなくても分かるね。
今もしそんなこと言われたら、下がり続けてるテンションが地面突き破ってマグマに到達しちゃうんだよ。
だからお願い。レイズ様には、今ここにいる私のことは、ルセリナとは無関係の知人の一人だとでも言ってくれ。ルセリナはお腹を下してトイレに駆け込んだってことにしてさ。
「うーん」
「どうした? ベル」
「ああいや、なんでもない。それより彼女のことが気になるんだって? 紹介するよ。こちらは俺の知り合いでトイレニちゃん」
トイレ、に?
「トイレ、に?」
「あー違う違う。トイレにじゃなくて、ト・イレニさん。トが苗字で名前がイレニ」
「ト・イレニさん……?」
「そうそう」
「そうなのか」
なるほどトイレニさん……いや、名前考えるの下手くそか!
なんだよ。苗字がトで名前がイレニって。どこの国の人だよ。適当にも程があるでしょう。レイズ様も珍しく滅茶苦茶困ってるじゃないか! 雑な返しは駄目だよ、絶対!
「イレニちゃん。こちらの彼は俺の友人、ルメール家のレイズ君」
しかも話振ってきた。ああ、こうなりゃヤケだ。
「ハジメマシテ。『トト』トイウクニカラヤッテキマシタ。ト・イレニデス」
……私も下手くそだな! なんだよトトの国って、TOTOじゃん。便器メーカー出ちゃったよ。完全にトイレに引きずられてる。これは近隣にイナックスって国もあるね、きっと。
「とまあ、この通り彼女は異国の子で初対面の人相手だと緊張してしまってね」
「あ、ああ。そうか」
レイズ様、凄く警戒してる。そりゃそうだ。でも余りにも突飛すぎるせいなのか、正体は私だろって断言もしてこないな。もしかして、このままバレないのか……?
「……」
ごくり。
「こ」
こ?
「これは失礼しました。先ほどは勢いで『こいつ』などと失礼な発言を。一瞬、自分の知り合いかと思いまして。よく見れば全くの別人でした」
ば、バレなかった!
本当か。後でドッキリだったとか言わないでくれよ。本当に、本当にバレないんだな? 私のことをクソメイドではなく、謎の異国の少女ト・イレニだと思っているんだな?
「オ、オキニナサラズ」
「いえいえ。こんな美しいお嬢さんをうちの薄汚い知り合いと見間違うとは本当に失礼しました」
薄汚いは余計だな。
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