第42話 似た者同士と言われてもラブコメ展開にならない。なぜなら相手がいないから。


 誰かが手を取り引き止めてくれることもなく、私の花嫁候補参戦はウォータースライダーのように流れに乗ったまま、それはもうあっさりと決まってしまった。

 誰でもいいから私をさらってくれよ。


「面白かったなーレイズとルセリナちゃん」

「何がです」


 その後、パーティ会場をあとにした私達はなんとなく街の大通りを歩いていた。

 ちなみにレイズ様はやることがあるとか言ってどこかに消えた。詳しくは知らん。そのままどこかでぼったくられてしまえ。


「どっちも同じような事言って相手の揚げ足取ってたよね」

「どっちも同じだなんて」


 同一視とはなんとも失礼なことだ。正反対と言われるならまだしも、ベルさんから見れば私もアレと同じだっていうのか。


「完全にあっちの方が悪でしょう」


 隣から、ははっと笑い声が聞こえる。笑わせたつもりはない。


「ごめんごめん、怒らないでよ」


 いや、怒るわ。不快だわ。


「こうまでレイズに手厳しく言える子がいるなんて驚いてさ」


 いないでしょうよ。腐っても今までのあの男は金持ちの貴族の令息様だったわけだし。そんな男を敵に回してもいいなんて思えるのは、正義感溢れるヒーローや婚約破棄で相手をバッサリ切り捨てる転生主人公か、まあそんくらいのものでしょう。実際。現実はそんなものに溢れちゃいないのよ。


「私だってこんな状況にならなきゃ言い返すことなんてありませんでしたよ」


 そもそも関わろうと思ってなかったし。


「今は事情が違うんです」

「ああ、追放されたんだっけ?」

「ええ」


 だから例えどんなに相手が横柄に振舞っていても、実際のところ偉いところのボンボンではなく、文無しの一般人なのだ。

 極力争いに労力を使いたくない私は、基本相手の言い分を聞き流してはいるが、自分の身に危害が及びそうになればそりゃあ反旗だって翻す。


「とんだ貧乏くじですよ」


 追放だってレイズ様がいなければ起こらない話だったのに。


「ふーん」

「……なんですか」


 暗がりの中で街頭の光が差し込んだ。

 不穏にもベルさんはニコニコと笑っている。


「じゃあレイズと一緒に付いていくのやめればいいのに」


 ……またその話か。

 レイズ様もそうだけど、なんですぐそう言う結論になるかなぁ。

 夜風が髪をなびかせた。ベルさんはまだ笑っている。


「さっきも言ったとおり、私は国を追放されなきゃいけないんです」


 不本意だけど、私にはその使命がある。


「それはレイズ様も同じです」

「二人で一緒に?」

「……」

「例えそうだとしても、そんなのばれないって」

「……」

「ここ、どこだか分かるでしょ。ルセリナちゃんがいた屋敷からはかなり遠い国境の街」

「……」

「こんな遠くに来てまで国を出たかなんて、彼らはいちいち判断出来ないよ」

「……」


「そして君は花嫁になる。そうすれば、もう一生遊んでだって暮らせる」

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