第32話 これが私の答えですよ


「俺とお前が一緒にいる意味は……無い」

「!!!」


 ガガーン。これが漫画ならそんな効果音が流れていたに違いない。

 でも確かに言っていることは間違っていないんだよなぁ。私達は一緒にいる意味がない。無いんだけど。


「それでも、お前がどうしても俺と一緒に居たいなら考えてやる」


 よりにもよってこいつは。


「ええ、それは勿論一緒に居たい――」


「いいのか、俺は悪い人間なんだろ?」


「……」

「アリスの形見は盗むし」

「……」

「お前のことだってこき使う」

「……」

「家族にだって見捨てられて、今や一文無しでもあるな」

「……」

「それでもお前は俺と一緒に居たいのか? 名無しのメイド」

「…………」


 こいつは、本当にこの男は。

 確かに、自分の非は絶対認めなくて、弱い立場の人間には偉そうで、すぐ命令して、自己評価は無駄に高くて、実家から追放されて今や財産もなくて、顔だけしか取り柄もない。そんなの、そんなの当然。


「まあ、確かにレイズ様は色々と問題なところもありますが、決して悪いところばかりではなく、家族にだってきっと完全に見捨てられている訳では、そのえっとー…………」


 あれ、私は何を言いたいんだ。この期に及んで擁護? 言い訳? なんで? 何のために?


「……ああもう面倒臭い!!!」


 面倒臭い!


「なんですか、そのネチネチした納豆みたいな質問。性格が悪いとかそんなの知ったこっちゃ無いんですよ。私はレイズ様についていきます。いくんです。分かった? 分かりました? だからさっさと私も一緒に連れて行ってください」

「メイド、お前」

「あーそれと、私の名前、本当は知ってるじゃないですか。全然名無しじゃないじゃないですか、嘘つき」

「……」

「メイちゃんが困ってます。ほら、さっさと行きましょう。台車でも借りて私を外まで運んでくださいよ」

「分かった」

「それじゃ早く台車にうぎゃっ」


 なんで私急に浮いたんだ?

 ん、いや待って、これお姫様抱っこじゃない!? そんな、馬鹿な。冗談。


「じゃあな、せいぜいあの家を引っ掻き回せよ」

「勿論よ。お母さんの恨み、親子二代で晴らしてやるわ」


 どうでもいいけど、早く降ろしてほしい。

 自然にこのチョイスしてくるとか、これだからお貴族様は。


「は、はは早く行きましょう」

「待てとか早く行けとかうるさい奴だな」


 ほっとけ。

 つっこんでる時間も惜しい。外に出たことだし後は。


「それで行先は?」

「国境付近にいい街があるのを思い出した」

「いい街?」

「ああ」


 そう言って移動魔法を唱えると、空に引き寄せられるような感覚と共に、私達は一瞬にしてこの場を後にしていた。



===


 ルメール家にて。


「ハスター様」

「おお、どうした。シュタイン」

「レイズ様達が国境付近の街に移動したようです」

「国境付近、一体どこの街だ?」


「恋愛の街アロマスクです」

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