第15話 住所不定無職
「あー駄目だ。こりゃ完全に魔力が吹き飛んでますね」
フェリクスの爆弾テロが発生した後、しばらく森を駆け抜けた私達はある異変に気が付いた。
馬車のスピードがすこぶる遅いのだ。馬じゃなくてロバかポニーが引いているのではないかと思うくらいに。
確か馬車は、国を出るのに十分な魔力が注がれていたはずだった。
「たぶんあの爆弾に魔力を放散させる毒でも仕込まれていたんでしょう」
爆弾の直撃は免れたものの、煙はこっちまで流れてきたからその可能性が高い。
「毒ってお前、アイツはまだ15歳だろ」
「その15歳が兄に餞別として爆弾を渡した事実をもうお忘れで?」
奴は年齢的には15歳だが、その悪意は15歳なんてレベルをとうに超えている。
「フェリクス様がレイズ様の命を脅かしたことは確かにショックな出来事だったかもしれません。しかしこれは事実なのです!」
「お前やけに力説するな……」
「被害者歴が違いますからね」
年季が違うのだ。年季が。
「とにかく過ぎたことを悔やんでも仕方ありません。あの屋敷を出た今、命を狙われることなど二度と起こらないでしょうし、これからどうするかを考えましょう」
「また命を狙われたら?」
「殺しましょう!」
「殺すなよ……」
~数十分後~
「駄目ですね。この馬車、魔法をかけた本人が魔力を補充しないといけない仕組みになっています」
色々試してみたものの、馬車の機動力は回復しそうにもなかった。
当然ここには術者もいないし、もうこの馬車はそれほど遠くまで走れないだろう。
「こうなる可能性にもっと早く気付けていたら」
どこかの街でひとまず休憩することだって出来たのに。ここは森のど真ん中。そんな施設はどこにも無い。
「元はと言えばあんな爆弾事件があったのに、解決したらしたで満足してすぐに寝始めたお前が悪いんだろ」
「んな」
いやそれは確かに寝ちゃったけれども。
だってさー目の前で弟に命を狙われてショックそうにしてる人がいてみてくれよ。気まずいから。
嫌いなんだよ、その手の妙に湿っぽい空気もそれを慰めるのも。
寝たふりくらいしたくなるだろ? ……そしたら本当に寝ちゃったけどさ。
「そんな事言うなら自分だって起きて周囲を警戒してればよかったんですよ。寝てないで」
何も寝ていたのは私だけではない。
コイツもまた時を同じくして眠っていたのだ。
つまり二人とも馬車で爆睡。誰もこの事態に気が付かなかったのである。
「は、なんで俺が? メイドなんだからお前が色々やって当然だろ」
「残念ですねぇ。実は私、お屋敷から解雇されてしまったので、もうメイドでもなんでもないんですよ」
住所不定無職と呼んで貰おう。
「そしてレイズ様、追放された貴方だってもはや貴族ではないっ!!」
住所不定無職と呼んでやろう!
「う、うるさい!」
「レイズ『様』ではない。もはや貴方はレイズ『さん』あるいは『君』あるいは『敬称略』で十分なんですよ!」
「こ、こいつ……!」
「そうと分かれば、さあ考えるのです。この状況から何とか脱出する方法を!」
ちなみにこのやり取りは小一時間続いた。
そして私達はまだ気付かなかった。新たな危険が迫りつつあることを――
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