第14話 爆発しそうなこの気持ち


「遅い!」


 うわ、先にいるし。レイズ様ったら意外と時間に正確な男なのね。


「なんでそんなに遅いんだよ」

「いやいやだって、仲間内でのお見送りとかあるでしょう」

「そんなものあるか」


 そういえば家族は姉の結婚報告に召集されてるんだっけ。アリーゼ様に三分以内に来て欲しいと言われたアリスちゃんとシュタイン先輩も私をここまで見送ったらすぐに屋敷の中へと戻ってしまった。

 って訳で現在レイズ様と二人きり。

 私の方が遅れてきたことに早速腹を立てているし初っ端からやりにくいなぁ。


「で?」

「で? っていいますと」

「これからどうするんだ」


 これからって、とりあえず屋敷を離れなきゃいけない訳だけど……よく考えたら私だって追放初心者だし、具体的にどうしなきゃいけないかまでは知らないなぁ。


「とりあえず国外に出るために馬車を走らせますか」

「好きにしろ」

「はいはい」


 とりあえず国外までお願いっと。

 私が心の中で念じると、馬車は勝手に走り出した。


===


「わあーあっという間にお屋敷が遠くに……ってレイズ様そういう感傷みたいなの無いんです?」

「あると思うか」

「無いんですね」


 まぁ私も別にそこまで無いけど。


「というかレイズ様、何勝手に人の荷物を物色してるんですか」


 そのバスケットにはアリスちゃんが私の為に用意してくれた、美味しい料理が入っているっていうのに。母の形見を奪うような男の為に用意した物ではないのだよ。


「返してください」

「は、何言ってるんだよ」

「何って、それ私が持ってきたバスケットですよね」

「だから何言ってるんだよ」


 なんだコイツ。もしかしてお前のモノは俺のモノとか言いだすつもりか。そんなジャイアニズム、国民的アニメは許容しても私の心は許容しないんだぜ。


「お前のは自分の足元に置いてあるだろ」


 あ、ほんとだ。じゃあそっちで開けているのは一体。


「これはフェリクスから貰った餞別だよ」

「餞別?」

「ああ」


 あのフェリクスが餞別? 本当に? 自分達に死を選ばせようとしたクソガキ様が?


「な、中には何が?」

「分からん、箱が入ってる」

「箱?」


 よかった、料理じゃないのか。

 料理だったら毒が入っててもおかしくないからすぐ捨てるように言おうと思ったんだけど。


「あ」

「どうしました?」

「何か聞こえる」

「聞こえる?」

「時計の針みたいな。チッチッって」

「いや、それって」

「?」


 私知ってるわ。それ大丈夫じゃないな。映画とかで滅茶苦茶見たやつだもん。贈り物と見せかけて、爆発するってやつ――


 ああ、やっぱり言うわ。


「すぐ捨てろおおおおお!!」

「あ、お前何しやがっ……」


 無理やりそれを奪い取って、馬車の扉を開けて、思い切り投げてやった。


どおおおおおおおおおおおん


「うおっ」

「うぎゃっ」


 漫画みたいなありきたりな爆発音が盛大に鳴り響く。

 近隣住民の皆様申し訳ございません。でも、幸いここは森の中だし、たぶん住人はいない……よね?


「ば、爆弾か?」

「あれが爆弾じゃなくてクラッカーにでも見えました?」

「い、いや」

「どうせフェリクス様のことだから、からかい半分で殺しに来たのでしょう」

 

 おのれフェリクス、サイコパスめ。

 どうせ追放されるなら、その後の消息なんてどうでもいいと思って爆弾を仕込んだに違いない。


「からかい半分で殺しに来るか、普通」

「しますね、確実に」


 ふわふわと香る火薬の匂いを感じながら、私達の馬車は更に森の奥へと進んでいった。

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