第6話 私はこの世界のモブなのにアレがアレしちゃう感じの展開


 壇上で高々と掲げられ輝きを増す『二千年の紅い涙(仮)』。


「素晴らしい。なんて美しい輝きだ!」

「さすがレイズ様です」

「お誕生日おめでとうございます!」


 レイズ様に対する称賛の声。そして湧き上がる拍手、拍手、また拍手。何がそんなに素晴らしいのか。茶番も大概にして欲しい。全くそう思うでしょ、ね、アリスちゃ……


「?」


 血の気の引いたような真っ青な顔でアリスちゃんは固まっていた。


「ちょっ、ど、どうしたの? 具合でも悪い? それともお腹すいちゃった?」


 それは私だとツッコミを入れ、彼女の元へと駆け寄った。けれど顔色は良くなるどころか増々悪くなっていく。


「アリスちゃん?」

「そ、それ」


 震える手でレイズ様の持っているネックレスに指を向ける。


「あれがどうかした?」


 欲しくなっちゃった? うん、じゃあ仕方ない。あとで私の持ってる本物を――


「あれ、私のです」

「へぇーなるほど、私のー……」


 わたしの?

 聞き間違いでなければ今彼女は「私の」と言っただろうか。it's mine?


「アリスちゃん今、『私の』って言っ……」

「あれは私の物、私がさっき探していたお母さんの形見なんです!」


 おーっとぉ、待て待て。ちょっと待て。

 確かにアリスちゃんゲームの準備してる時、探し物がどうとか言ってたよね。で、その探し物は景品としてレイズ様の手によって用意されたわけだ。話によるとこれは世界に一つしかない物だっていうし、そうなると入手ルートってもしかして……?

 そういえばゲームの準備してた時、レイズ様なんか訳あり顔で誰か探してたよね。

 二人の間に何かあるパターンじゃないよな、これ。


「ははは。言いがかりはよくないな、アリス」


 名前バッチリ覚えてるよこの男。私に対しては『メイド』としか言わないのに。何かあるわ、この関係。分かるよ。色んな漫画やゲームで見たことあるもん。


「どうして俺がお前のモノを盗むと思ったんだ」


 ほら、盗むとか言っちゃってるよ。まだ誰も盗んだとか言ってないのに。間違いなくこいつ犯人だよ。一人称も『私』が『俺』になっちゃってるし、ボロ出まくりですやん。


「それは、私が貴方にこのネックレスの事を話してしまったから!」

「知らないなぁ、そんな話」

「そんな! 正直に教えればもうこれ以上、私とは関わらないって言ったじゃないですか!」

「夢でも見ていたんじゃないのか? 第一、お前のだなんて証拠がどこにある」

「それは……」


 なんだろう、このドラマ的展開は。

 さしずめ私はこの物語に登場するモブメイドAって感じか。驚いた顔で二人のやり取りを見てればいい感じか。

 ……でもなーどうするかなぁ。なんだかアリスちゃんピンチみたいだしなぁ。このままだと言い負けちゃいそうなんだよなぁ。このままじゃ手籠めにされちゃうルートに入るかもしれないし、アリスちゃんいないと私のやる仕事また増えそうだし、助けてあげようかな。

 って言っても、さっきの「盗む」発言にツッコミを入れるくらいだけど。


「あのーすみませ……」

「証拠ならあるぞ」


 いや、ちょっと、私の発言にかぶせてこないでよ。誰だよ、全く。


「お父様?」


 ハスター様だったーーーーー!

 え、何、どうしたの。パパ、どうして出てきちゃったの。急に推理力でも向上したの? 後ろから麻酔銃でも撃たれたの? 椅子の後ろとかに体は子供、頭脳は大人な蝶ネクタイの名探偵とか潜んでたりしない??


「お父様、急にどうしたのです」

「どうしたもこうしたもない。それが彼女の物だという証拠があると言っているんだ」

「なんですって?」


 ナンデスッテーー!?


「では証明してやろう。その『二千年の紅い涙』でな」



 衝撃の展開。

 nextハスター'sヒント『二千年の紅い涙』

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