第5話 頭を撫でてもらうより給料が上がった方がいい人もいる

 わいわいがやがや。パーティ会場の空気も随分と温まってきたようだ。


「そろそろいい時間でしょうか」


 ステージ脇から現れたシュタイン先輩がこちらの様子を覗いた。


「ルセリナさんがきちんと準備していたようで安心しました」


 何が安心しただ。無理矢理仕向けた癖に。


「勿論、きちんとやらせていただきましたよ。お・仕・事ですので」

「おや、何か不満でも。良く出来ましたと頭を撫でてあげましょうか」

「そういうのいいので、給料上げて下さいよ、給料」

「キウイ? キウイが欲しい? すみません、会場の音がうるさくてよく聞こえませんね」


 ほんといつか階級が逆転したら覚えとけよ。


「もう、二人とも。そういうの後にして下さい。始まりますよ!」


===



「さて皆様、今日はご存じ我が息子の20歳の誕生日。お越しいただいたゲストの方々に少しでも素敵な思い出を作っていただこうとちょっとしたゲームをご用意致しました!」


 ステージの中央でハスター様が大きく両腕を広げた。

 その合図で私達は台車に乗った景品たちをステージ上に運ぶ。


「本当は私も参加したかったなぁ」

「先輩、聞こえますよ」

「はいはい」


 アリスちゃんに窘められながら、少しずつ景品を並べていく。


「さあさあ今日は大奮発。なんと土地の権利書なども用意を……」


 ハスター様は一層饒舌に弁を振るった。


「お父様ちょっといいですか」

「ん、どうしたレイズ」


 その会話を止めたのは息子だった。

 不思議そうな父親を横目に、当の本人は余裕の笑みで一歩前へと躍り出た。


「皆様、今日は私の為にお越しいただきありがとうございます」


 うわあ、嘘臭い挨拶。本心じゃ感謝なんて微塵もしてないくせに。


「ささやかですが私からも一つプレゼントを用意しております」


 なるほど。ここでさっきのネックレスの話をするらしい。


「なに、お前が自分で用意を?」

「はい。この日の為に方々探し尽くしました」

「そうか、お前がそんな気の利いたことを出来るように……」


 涙ぐむハスター様。いやいや、そのくらいで涙って。涙腺がよっぽど詰まっていたらしい。周りのお客様もこぞって目を潤ませている。


「わあ、価値観の相違ってやつだなこりゃ」

「ルセリナ先輩っ」

「おっと失礼」


 可愛い後輩に再び注意されてしまった。失礼。後はちゃんと働きます。



「さあご覧下さい!」


 たった今偉大な成長を遂げた息子様の盛大な掛け声が会場に広がる。

 ん? かと思えばテーブルの裏を回ってこちらに来たぞ。どうした。まあいいや、とりあえず邪魔にならないよう端に避けなきゃ……


がつん


「痛っ」


 足に鈍痛。

 え、何、まさかこれ今、足踏まれなかった?

 驚いて顔を上げたら、まさかのレイズ様がこっちを凄い形相で睨んでいた。嘘だろ、私何かした?


「ちっ」

「えっ今、舌打ち……」


 凄い小さな舌打ちが聞こえたかと思うと、彼は表情を一変させくるりと会場の方へ向き直した。


「ご覧ください!」


 その途端、私の手首はぐるりと捻り上げられる。手にしていた小箱が無理やりもぎ取られる形となった。


「あ、それ」

「こちらが本日用意した、世界に一つしかないアイテム『二千年の紅い涙』です!」


 例のサプライズプレゼントが大きく空に掲げられた。それはキラキラと会場を輝かせている。

 なるほど、これが必要だったのね。でも残念、今は世界に二つ存在するんだなぁ。


「どうぞ幸運な方が今宵の思い出にお持ち帰りください」



 ま、それ私の持ってた本物に限りなく近い偽物だけどね。

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