第7話
「まったく、この子は心配ばかりかけて…」
「ううう、ごべんじゃい…」
ヌイちゃんの姿を見つけ、俺たちに近づいてきたのは彼女の姉である冒険者の少女だった。
彼女を交え、改めてヌイちゃんに話を聞くと。
ヌイちゃんは冒険者をしている姉が毎日仕事で出かけ留守にいているのを寂しく思っていたが、それでも普段は家族のために働いているのだからと我慢していたらしい。
しかし、今日はヌイちゃんにとっての特別な日。
一年に一度のお祝い、何日も前から指折り数えて待っていた誕生日の日だったのだ。
そんな特別な日の朝、目が覚めてすぐにワクワクしながら大好きな姉の部屋へ行くとそこはすでにもぬけの殻。
慌てて家中を探してみても姉の姿は見当たらず、お仕事が忙しすぎてとうとう自分の誕生日まで忘れられてしまったのだと思ったヌイちゃんは、誕生日の今日くらいワガママを言っても許されるだろうと姉を探しに一人で家を出てしまったらしい。
そして、子供なりに姉が行きそうな場所を考え。
危ないから近づいてはダメと教えられていた、夜霧の森にまで迷い込んでしまったのだという。
「何も言わずに出てっちゃったアタシも悪かったけど、あんな危ない場所に一人で行っちゃダメでしょ! 」
「でも、ひぐっ。 ねーね、あたちのお誕生日ぃ、ひぐっ」
「あーもうっ。 本当は夜の誕生日会で渡すつもりだったのよ…ほら、コレ。 アンタへのプレゼント」
「…? ぁ…しょれ! あたちが欲しかったぬいぐるみしゃんでしゅ! 」
どうやら。
ヌイの姉は誕生日の事を忘れていたのではなく。
今日は朝からプレゼントの買い出しなど夜に開く予定のヌイの誕生日会の支度に追われてたらしい。
「えへへ。 あなたのお名前は今日からポムちゃんでしゅ〜。 あたちはヌイちゃんでしゅよぉ」
「本当に…もう、この子は。 さっきまであんなに泣いてたのに、もうぬいぐるみに夢中なんて」
「ハハ、子供なんてそんなもんだよな。 とにかく、大事にならなくて良かった」
「あっ…ごめんなさい、お世話になったみたいで。 アタシはロゼ。 この子の姉で冒険者をしているわ。 えっと…貴方は」
「ねーね、このおにいしゃんも冒険者しゃんでしゅよ」
「ああ。 俺はジーク、ドラミンの冒険者だ」
「えっ! そうなの? この辺りだと見ない顔だけど…」
ロゼの口ぶりから、ここパンダムで冒険者の仕事に就いている彼女の記憶に、同じ冒険者支部を利用していた俺に関する記憶がないことが分かった。
また、俺もヌイちゃんやロゼをEGOのゲーム内で見かけた記憶はないので。
ゲームであるEGOがそのまま現実化し、NPCたちにも生命が宿ったという考えは早々に頭から追い出したほうがいいのかもしれない。
(そうだな…。 となると、まずは身分を証明しておいた方がいいか)
「転送、冒険者手帳」
人前で急に、何を言い出すんだと自分でも思うが。
傍にゲームブックが浮遊している時点で、怪しい人物には変わりないだろう。
身分証の代わりになればと、ゲームブックから冒険者手帳を転送しロゼに差し出す。
「ほら、コレが俺の冒険者手帳だ」
「えっ、あっ。 えっと…今のは…」
「ん? ああ、この浮かんでる本から転送したんだ。 俺もまだ仕組みは理解出来ていないんだが…」
「浮いてる本?? もしかして貴方、書の民なの!? 」
「書の民…? 」
「と、とにかく。 ここで話してない方が良さそうね…。 私について来て。 ほら、ヌイ。 行くわよっ」
「う…? おにいしゃんもあたちのお誕生日をお祝いしに来てくれるでしゅか?? 」
「えっと…そう、よね? 」
ロゼからチラリと、意味ありげな視線が送られてくる。
(よく分からないが…ここは話を合わせておいた方が良さそうだな)
「ああ、そうだ。 今日出会ったのも何かの縁だし、ヌイちゃんがいいなら俺にもお祝いさせてくれ」
「わーい! うれしいでしゅ! はやくいこーでしゅ! 」
俺の言葉を聞き、きゃっきゃっとはしゃぎ出したヌイちゃんに手を引かれ。
俺はロゼの案内のもと、彼女たちが暮らす家へと向かうのだった。
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