第6話

 犬のような特徴をもつ獣人族のイヌミン。


 EGOでの獣人族は、耳や尻尾…翼などの特定の部位以外は人と変わりない姿をしており。


 一括りにイヌミンといっても、柴犬のように立ち耳のものやパピヨンのようなバタフライイヤーのものなど耳一つをとってもかなりの個人差がある。


 近付いてくる俺を、不安そうな表情で見上げているこの女の子はゴールデンレトリバーのような垂れ耳の持ち主だった。


「…怪我はないか? 」


 左手の大盾も武装解除し、丸腰になって敵意はない事を伝えながら地面に座り込んでいる少女に手を差し伸べる。


「あ…」


「? 」


「あ、あなたちゃまは…魔徒まとしゃん、でしゅか…? 」


(魔徒しゃん? もしかして…魔族だと思われているのか? )


「いや、違うぞ。 俺はドラミンの冒険者だ。 なぜ魔徒だと思ったんだ? 」


「しょ、しょれは…」


 リアルでも大男だった経験から、相手を見下ろした状態でいると恐怖心を与えてしまうかもしれないと思い一度しゃがんでから再び手を差し伸べる。


「ほら、立てるか? 」


「あ、あいがとでしゅ…」


 目線を近付けた事で、警戒心が少し薄れてくれたのか。


 小さな手で俺の手の平を掴むと「よいちょ」と可愛らしい掛け声と共にようやく立ち上がってくれた。


「どこか痛んだりするか? 」


「だいじょび…」


「そうか、なら良かった。 一先ず君を安全なところまで送ろうと思うのだが…」


「う…。 冒険者しゃんなら…ねーねと同じでしゅ。 しょの…さっきは、魔徒しゃんっていってごめんちゃい…でしゅ」


「…そんな顔しなくても、別に怒ってなどいないから大丈夫だぞ。 ただ…魔徒と口にした理由が気になっただけなんだ」


 EGOでは人型の魔物の総称であった魔徒という言葉。


 単純な戦闘力の高さに加え、魔物にはない高度な戦略に基づき行動してくる強敵として知られる魔徒がこんな序盤のエリアに居るとしたら大問題だ。


(この子を護る為にも、怖がられるかもしれないが武器を出しておくべきか…? )


「おにいしゃん…。 強いのに男のひとだったから…ねーねがいってた魔徒しゃんだと思ったでしゅ」


(強いのに男の人だったから…? )


「そ、そうか。 この辺りで魔徒が目撃されたとかではないんだな? 」


「あい…」


「なら…大丈夫だ。 先程も言ったが俺はドラミン、竜人族だ。 急に現れた男を信用しろというのは無理があるが…君に敵意はない。 安心してくれ」


 話ながら素顔を兜で覆い隠していた事を思い出し。


 一時的に兜を武装解除して顔を見せる。


 ドラミンがもつ特徴的な捻じれ角は、本人の意思で自由に出したり消したり出来るのだが。


 その理由は、ドラミンが自分の意思でどこまで竜に近付くかを調整出来る事にある。


 職能に関係なく、レベル100に到達したドラミンであれば完全竜化という種族スキルを覚えることが出来。


 カンストしていない状態でも、レベルが上がるごとに角を生やす翼を生やすなど本人の意思で竜の力が自由に操れるようになっていくのだ。


 ちなみに、完全竜化を発動した時の姿はかなりの個人差があるのだが。


 俺の場合は巨大な黒竜へと変身することが出来る。


「ほら、頭に角が生えてきただろ。 お望みなら翼も生やせるが…竜への変身は疲れるからここでは勘弁してくれ」


「ふぁぁぁ…! 」


「ど、どうした…? 」


「おにいしゃん、しゅごい美男しゃんでしゅね…! 」


「なっ…! そ、そうか…? って…そうじゃなくて。 このとおり、俺はドラミンの冒険者だ。 この森はあの毒蛇のような魔物が出て危険だから、君を安全な場所まで送り届けたい。 一緒に来てくれるか? 」


「あい! ちゅいてくでしゅ…! あとヌイちゃんのことはキミじゃなくて、ヌイちゃんと呼んで欲しいでしゅ! 」


「お…おう。 じゃあ、そろそろ行くぞヌイ――」


「ぶぅ~でしゅ! 」


(……くっ! 相手は子供だ…仕方ない)


「…ヌイちゃん」


「あい! しゅっぱーつでーしゅ! 」






 ◇◆◇






「しょれででしゅね、その時ねーねが…」


(ん…? アレは)


「ほら、ヌイちゃん。 街が見えて来たぞ、もうすぐだ」


「ぶぅ~でしゅ! ヌイちゃんのはなち、ちゃんと聞くでしゅ! 」


「あ~悪い悪い。 それで、ヌイちゃんのお姉ちゃんがどうかしたのか? 」


「うみゅ。 しょれで、ねーねがでしゅね…」


「あー!!! いた!!!! 」


「…!! 」


 突然、遠くのほうから聞こえてきた大声にビクリとヌイが体を震わす。


「おーい! ヌイっ!!! やっと見つけた!! アンタ、今までどこ行ってたのよっ!! 」


「お、おにいしゃん…」


「どうした、知り合いか…? 」


 念のため。


 不安そうな声で繋いでいた俺の手を引っ張ってきたヌイを、後方に隠しながらそう問いかける。


「たしゅけてくだちゃい」


(こんなに震えて…もしかして、ヌイは誰かに追われて森まで逃げていたのか…? クソ、街の近くまで連れてきてしまったのは迂闊だったか…! )


「安心しろ、誰が来ても必ず俺が護ってやる…! 」


「ねーねがきましゅ」


「……へ? 」

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