第5話
「武装、召喚! 」
その言葉がトリガーとなり、走り出した俺を浮遊しながら追従してくるゲームブックから武器が転送される。
俺たちに与えられたゲームブックは様々な機能を詰め込んだ、いわば万能ツールのようなもので。
アイテムの出し入れはもちろん、装備の着脱もこのゲームブック一つでこなすことが出来る。
左手に大盾を、右手にウォールセイントのメインウェポンである
(今は時間が惜しい…! 移動速度を少しでも上げねぇと! )
「飛ばせ、海駆けの誓い…! 」
ウォールセイントが覚える聖術カテゴリー、アクティブスキルの一つ。
海駆けの誓い。
この聖術を極めし者は己が脚で大海原を駆けられるだろう、という説明文からも分かる通り自身と味方の移動速度を大幅に上昇させるスキルだ。
味方を先導して進むタンクが覚えるスキル故にか、この海駆けの誓いは自身にだけ二重で移動加速バフがかかるのでソロプレイ時も
(…捉えた! )
真透の眼の効果により一時的に強化された俺の瞳が、地面を這いずりながら獲物を追いかけているガレハードヴァイパーたちの後ろ姿を捉えた。
(クソっ! もう殆ど女の子と毒蛇たちの距離が無い…! アイツらが攻撃をしかけるのも時間の問題だ…! )
今から距離を詰めていたのでは間に合わないと判断した俺は、メインウェポンを武装解除し聖術の発動を試みる。
「手繰れ、
この聖術はスキルの溜め段階に応じて、一体から最大で五体の敵を強制的に自分の元まで引き寄せることが出来る集敵スキルだ。
一部の大型および超大型に分類される敵には無効化されてしまうが、中~極小サイズの相手であれば遠方から障害物を無視して自分の元まで引っ張ってくることが出来るため、今のような状況や距離を取られると厄介な敵を相手にする場合には非常に役に立つ。
俺の右手から放たれた光の鎖が瞬く間に森を駆け抜け、今まさに少女へ飛び掛かろうとしていた蛇どもの体へと巻き付いた。
「オラ! こっちへ来い! 」
木々を絶妙に避けながら、俺の元まで手繰り寄せられてくる三体のガレハードヴァイパーを見据え。
大盾を構える左手に力を込める。
(今だッ! )
重厚で頑丈な大盾が鈍器と化し、手繰り寄せられた蛇どもを無慈悲に叩きのめす。
シールドバッシュ。
小型に分類されるガレハードヴァイパーであれば、三体同時に巻き込めると判断した俺の読みが当たり。
ドシャ、というなんとも耳障りの悪い音を立てながら大盾で殴られた毒蛇たちは潰れたトマトのような姿に変わり果てた。
(レベル差から考えれば想定内だが……この攻撃でも、一撃で倒せたか)
本来、このシールドバッシュというのはスキルではなく装備条件を満たした大盾を装備している場合に行える基本モーションの一つであり、連続して敵に当てる事でスタンによる行動の阻害を狙うために使用するのが主だ。
今回の場合は俺とガレハードヴァイパーたちのレベルがあまりにも離れすぎていたため、スタンが入るどころか一撃で奴らを全滅させることが出来たのだろう。
(さて、助けたはいいが…)
見るも無残な姿になったガレハードヴァイパーの死体を一瞥し。
救出した少女…獣人族の女の子へと顔を向ける。
(助けるためには仕方がなかったとはいえ、子供にショッキングなものを見せてしまった…。 怯えられていないだろうか…? )
あの距離から少女を助けるために咄嗟にとった行動とはいえ、蛇たちが潰れる様は子供が目にするにはキツイ絵面だっただろう。
腰を抜かし、こちらを見上げたまま動けないでいるイヌミンの少女をこれ以上刺激しないよう。
慎重に足を進めながら、俺は彼女に近付いていった。
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