第4話
(とにかく、この血生臭い場所からさっさとおさらばするとしよう)
ゲームブックには幸いMAP機能も搭載されており。
「MAP表示、小域」
と口にする事で、白紙のページに現在地周辺のMAPを表示することが出来た。
さらに「MAP表示、中域」と口にすれば表示領域が国家規模にまで拡大され「MAP表示、全域」と発すれば国ごとの位置関係が分かる全域のMAPが写し出された。
しかし、残念な事に全域MAPはその大半が詳細不明を示す靄で覆われており…殆ど情報を得る事は叶わなかった。
とはいえ、MAPが使えるようになった事による収穫もあり。
最初に表示した小域MAPの情報から、現在地が予想していた通りジークがクエストで赴いていた夜霧の森だという事が判明した。
(だが…)
一つ気掛かりな点として、夜霧の森はゲーム内でとっくの昔に全域を踏破していた筈なのに森の一部エリアが詳細不明を表す靄で包まれていた。
全域MAPが殆ど使い物にならないことといい、踏破していた筈の夜霧の森ですら不明なエリアがあることといい。
恐らく、この世界はEGOと完全に同じ地理というわけではないのだろう。
(闇雲に動いてもスタミナを浪費するだけだ…一先ずの目的地を決めてから行動しよう)
ゲームブックのMAPにはスマホにインストールしていたナビアプリにも負けず劣らずな、多彩な機能が備わっており。
操作説明を読みながら軽く試してみたところ。
二本指で紙面を操作することで小域や中域と口にするよりも細かい地図の拡大・縮小が直感的に行え、紙面を長押しすることで目標地点を示すフラッグを立てそこまでの進路を表示出来るようだ。
フラッグの他にも、MAP上の好きな場所に目印とメモ書きを残せるピン機能も用意されており。
ピンは個数制限なく自由に設置出来るようなので、何か気になる物を見つけたらドンドン記録しておこう。
(とりあえず、現在地にピンを立てておいて”はじまりの場所”とメモしておこう)
ブラウンスターウルフと交戦していた現在地…はじまりの場所は、夜霧の森の深部から程遠い外周部であり。
冒険者ギルドの支部がある街「パンダム」からそれ程離れていない。
パンダムにあるギルド支部で俺はこの世界に転移してしまう前クエストを受注しキノコ狩りをしていたので、クエストの完了報告を行う流れで情報収集も同時に出来たらという希望のもと、最初の目的地はパンダムに決めた。
(パンダムまで行けば、同じ境遇のプレイヤーにも出会えるかもしれないしな…)
パンダムはEGOを始めたプレイヤーの開始地点として選ばれる五つの街の内の一つだ。
EGOではプレイヤーの種族によってチュートリアルを兼ねたストーリー序盤の開始地点が異なり。
パンダムはヒトミンと呼ばれる最も人間に近い種族と、ネコミン、イヌミンをはじめとする獣人族全般の開始地点だった筈だ。
俺のように転移前クエストに出ていたプレイヤーは別として、ゲームを開始したばかりの初心者。
まだ一桁レベルの者であれば、現実の死とリンクしているデスペナルティの恐ろしさから街を出ずにその場で留まっている可能性が高い。
(俺みたいなレベルカンスト勢なら、一度死んでしまっても消滅までの猶予があるが…)
一度の死で総合レベルが十、超過レベルが二十低下してしまう事からレベル一桁のプレイヤーはレベルアップを重ねて総合レベルが十一以上にならなければ生命星の残量に関係なく死んでしまったらそのまま全ての世界から消滅してしまう。
超過レベルに関してはレベル百到達後に「はじめて出現する項目」なので、恐らくカンストしていないプレイヤーであれば超過レベルの低下による消滅はありえないはずだ。
この世界での自分の役割を示している駒という概念。
俺の駒である盾の駒は、他者を守護する役割を示していた。
(誰かを護るっていっても、俺一人でいったいどれだけの事が出来るんだ…)
ソロのタンクとして。
一人、黙々と遊んでいたボッチプレイヤーの俺が…誰かを護る事など本当に出来るのだろうか。
◇◆◇
(ん? 何だこの印…)
移動を開始してから十五分程経ったころ。
MAP上を移動する白い丸印と、それを追いかけるようにして移動している赤い丸印が三つ写し出されていた。
白い丸印は俺の現在地を示す水色の三角形から見て割と近い距離にあるが、移動し続けている為徐々にその距離も離れていっている。
(どうする…? 脇道に逸れてこの印を追いかけてみるか? )
つい先ほど、やっと人の手で整えられた道に出たばかりなのだが。
ゲーム内では魔物を表していたエネミーアイコンに酷似した、赤い丸印に追いかけられている白い丸印の正体が少し気になった。
「……」
EGOと完全に同じ世界であれば、夜霧の森に出現するレベルの魔物くらいならジークの力がある今の俺一人で対処出来るだろうが。
詳細不明の靄がMAPに存在していた事から、ゲームでの知識・常識が通用しない事態が起こる可能性も考えられた。
(なにもしないまま見過ごすか? どうする…俺)
― 迷う事はありません、貴方の使命を思い出すのです ―
葛藤する俺の耳元に、女の囁き声が聞こえた。
「……っ! 見通せ、
ただの勘違い、空耳かもしれない。
それでも俺は、見知らぬ女の声に背中を押されるようにして索敵スキルの一つを反射的に発動していた。
「……!! 」
(視えたぞ…! アレは…ガレハードヴァイパー…? 一体何を追いかけて…? っ!! )
地蛇種のエネミーであるガレハードヴァイパーたちに追いかけられているものの正体に気付いた俺は、考える間もなくその場から駆けだしていた。
(どうしてこんな森の中に…! )
蛇たちに追いかけられていたのは、人間であればまだ園児くらいであろう幼い獣人族の女の子だった。
(頼む、間にあってくれ…! )
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