第九話 到着、開拓地!
アランドロ男爵領を旅立ち、およそ一週間。
王国を出てひたすら西へと向かった私たちは、とうとう目的地の手前までやってきた。
はるか平原の彼方に見える黒々とした深い密林。
あれこそがフィールズ大樹海、未だ人類の侵入を拒み続ける大秘境だ。
そしてその手前に広がる平地が、私たちの目指す開拓地である。
「ふぅ~~! やっと見えてきたわね!!」
「ああ、さすがにこれだけの人数がいると時間がかかるな」
「むしろ、みんなよくついて来た方じゃない? 脱落者もいないようだし」
後ろを振り返りながら、少し意外そうな顔をするお姉さま。
私たち一家について来た領民、およそ一千人。
その中には当然、子どもや老人も何割か含まれている。
言われてみれば、こんな雑多な集団が良くここまで脱落者もなくこれたものだ。
「ほほほ、我々の方でもあれこれフォローしておりましたから」
私とお姉さまが不思議そうな顔をしていると、どこからともなくセバンが現れた。
ここ最近、姿が見えないと思っていたらそんなことをしていたのか。
「なるほど、それなら納得ね。さすがは我が家の執事」
「お褒めに預かり光栄です。もっとも、これについては旦那様の采配も大きいのですが」
「お父様の?」
「ええ。烏合の衆ともいうべき我々を、これだけ見事に動かされているのは流石です」
彼の言葉に、お父様は照れ臭そうに顔を赤くした。
言われてみれば、お父様の采配は常に的確。
ろくに訓練もしていない集団を、さながら自らの手足のように動かしていた。
確かにこれは、英雄と呼ばれるお父様だからこそ出来た芸当だろう。
家では少し頼りない印象もあるお父様だけど、やっぱりすごい。
「さあ、このあたりでいいだろう! 皆、長旅ご苦労であった!」
さらにしばらく歩き、森の入り口近くまで来たところで。
お父様は声を張り上げて、皆の動きを止めた。
ここが私たちの新たな土地か~~!
ちょっと人里からは離れているけれど、意外と住むには悪くなさそうな場所である。
どこからともなく、森の爽やかで良い香りがする。
「じゃあ、まずは住むところと畑の確保ね。それがないとどうにもならないわ」
「畑は我々にお任せくだされ。農業一筋、五十年ですからのう」
そう言って、おじいちゃんたちが前に進み出てきた。
みんな小柄なお年寄りだというのに、何だかとても迫力がある。
農地の方は、とりあえずお任せしても大丈夫そうだわ。
「なら、私は森へ材木を切りに行こう。体力に余裕がある者は、ついて来てくれ」
「へい、旦那様!!」
お父様の呼びかけに応じて、若い男たちが集まってきた。
ちなみに旦那様というのは、お父様の新しい呼び名である。
うちはもう貴族じゃなくなったのだから、みんなとの間に上下関係なんてないのだけれども。
ついて来た者たちはみんな、私たちを立ててそれっぽい感じで呼んでくれている。
本当に、ありがたいことだ。
「私は地下水脈でも探そうかな。水は必須よね」
「なんか、いい方法でもあるの?」
「こう見えても錬金術師よ、それぐらい余裕にきまってるじゃん」
そう言うと、お姉さまはカバンから折れ曲がった鉄の棒を取り出した。
えーっとあれは、ダウなんとかに使うやつだっけ。
前に、鉱物の選別に使っているところを見たことがある。
原理はよくわからないけれど、お姉さまがこれで見つかるというなら見つかるのだろう。
「じゃあ、私は何をしようかしらね……」
まだ着いたばかりだというのに、慌ただしく作業を始める一同。
一方、私は少し手持ち無沙汰になってしまった。
ちょっとぐらい休憩しても、罰は当たらないと思うのだけれど……。
働くみんなを見ていると、やはり何か仕事をしなければならない気分がしてくる。
「うーーん……。あ、そうだ! 薬草でも探してこようかしらね」
これから始まる開拓生活、怪我をする人もきっと出るだろう。
いくらか持ち出してきてはいるが、薬草はたくさんあるに越したことはない。
ついでに山菜やキノコでも見つけてこれば、食卓の賑やかしにはなるだろう。
我ながら一石二鳥の計画だ。
「薬草狩りに出かけてくるわ! もし夕方まで戻らなかったら、探しに来てね!」
みんなに声を掛けると、森に入っていく私。
こうしていよいよ、私たちの開拓生活が始まるのだった――。
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