第14話 GO TO ダーク

 “作戦会議”は、オレが閉じ込められた部屋に、テーブルを置いて始められた。


 室内には、オレのほかにグロスとガミカと記録係の4人だけだった。あの見張りの男はいなかった。


 グロスが切り出した。


 「ビアンカくん、単刀直入に言おう。仕事はズバリ暗殺だ」


 こともなげに言う。みんなもあたりまえのような顔をしていた。


 「暗殺?」


 オレが眉間にシワをよせて言ったあと、ガミカが続けた。


 「あの殺人現場を見たとき、相当な“プロ”の犯行だと。それで調べた結果、女ということがわかり、我われは懸命にお前を探したのだ。その“技術”があればとな。」


 「……で、だれを暗殺するんだ?」


 「魔王」


 グロスはそう言った。


 なんとなく、こいつらの素性が見えてきた。


 「魔王? 和平交渉をしている、あの魔王を? なぜ殺さなければならない?」


 「平和交渉は、魔王によるカバーストーリーだ」


 グロスの話はこうだ。


 魔王はいまの魔族国家ザンゲツブルグを、ひとつの国家として世界に認めさせようと躍起やっきになっている。そのための和平交渉だ。


 魔族製品は品質がよく、魔力を使って大量生産が可能だ。いまは貿易協定で、魔族製品には多額の関税がかけられ、輸出も制限されているといっていい状況だ。


 その関税撤廃をめざしているのが魔王だと。そうなれば、魔族は貿易で莫大な利ざやを得てしまう。


 そうやって経済大国にもなれば、軍事力も拡大する。結果的に、世界は魔族に征服されてしまう。それが魔王の真の企みだ。それを阻止するために、魔王を殺す……ということらしい。


 魔王を暗殺するとなると、一国の王を殺すことと同義だ。そんなことが可能なのか。


 そこで、当局は数年もの月日を費やして、魔王の日常とザンゲツブルグの情報を集めたという。


 その情報もとにザンゲツブルグに赴き、魔王を暗殺する。その“役”がやっと見つかったというわけだ。


 この捜査局は、いわゆる諜報機関だ。暗殺ウェットワークを家業にしている。


 いまのオレなら、魔王の暗殺はできそうではある。あの“スローモーション機能”さえあれば。


 「数年前の魔王殺しも、お前たちの仕業か?」


 「それは知らんな。ついでに教えておいてやろう。『人間に殺された』と主張しているのは魔族だ。あやしいと思わないか?」


 グロスはそう返した。もう、どっちが嘘をついているのか、どうでもよくなってきた。

 話を進めることにした。


 「暗殺に成功したら、わたしはどうなる?」

 

 「一生食うに困らないだけの財産を与える」


 と、グロスが言った。


 一生食うに困らないか……。皮肉な話だ。オレはそこまで生きられないっていうのに。


 「で、いまからどうすればいいんだ? すぐにでもザンゲツブルグに向けて出発するか?」


 するとガミカが答えた。


 「暗殺は極秘裏に行わなければならない。痕跡を残してはならない。魔王がいるザンゲツブルグの居城まで、だれにも見つかってはならない。城に近づくにつれ、街や村には魔族の潜伏工作員モールがかなり潜んでいると思われる。だから、迂回して向かわなければならない」


 「つまり?」


 「街道を避けていくルートを用意してある。それに沿って進めばいい。ザンゲツブルグまで50日の行程だ」


 「なんだって!?」


 「しょうがないだろう。ザンゲツブルグはこの国とは陸続きだが、それにはどうしても街道を進まなければならない。それを避けるには一旦船でシルコル島に渡り、そこから別航路でザンゲツブルグ近郊の港町に渡る必要がある。当然、港町には直接入らず、別ルートで秘密裏に入港する」


 50日か。オレが死神に連れて行かれるリミットだ。まあ、どうせオレは死ぬんだから、魔王暗殺などはどうでもいいのだが。


 それに、暗殺に成功したら一生食うに困らない財産だって? 笑える。ぜったいにこいつらはオレを始末すると思う。口封じのために。


 暗殺なんて、ろくでもない仕事だ。どのみちオレは、不幸な最期を遂げるだろう。これが天地の法則であると、なんとなく理解していた。死ぬまで、精一杯RPG《冒険》してやろう。


 3日後に出発だという。


 しかしオレには、やらなければならない仕事がある。レイプ魔7人の男を始末することだ。


 そのことをグロスに伝えた。暗殺機関だから、こっちも平気で「始末」という言葉が使えるからラクだ。こいつらには“殺しのライセンス”があるのだ。


 グロスは「わかった」と言った。


 2日後、なんと7人全員を連れてきた。さすがだ。この街には、いったい何人もの諜報員が潜んでいるのだろうか。


 オレは一人ひとり尋問し、いろいろ聞いた。気持ち悪いことに、7人中4人はオレの体をなめまわすように見ては勃起していた。


 やはり、犯罪を犯すやつは、頭のどこかがプッツンしていると思われる。生まれてからずっとそんななのだろう。つまり生まれ持っての病気かもしれない。


 ガミカに急所を聞いて、ひと思いに殺していった。男として、せめても情けだ。結局、オレを見て「殺したはずでは?」的な顔をした者はいなかった。全員が一匹狼であり、横のつながりもないやつらだったのだ。


 これで、オレは余命50日が確定した。

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