第5話 カッタ村のオルファ
「おい! オレが先にやるってクジで決めただろ!」
オレの股を広げた男は、覆いかぶさってきた男に怒鳴った。
覆いかぶさってきた男は、てっきりオレの胸を口で
「オレが先だ! どけ!」
声を荒げる男が、動かない男を手でどかせる。
その瞬間、その手首が宙に舞った。
「!?」
「手ぇぇぇぇ!?」
手首がポトリと地面に落ちる。男は腰を抜かし、わめき声をあげる。そして、自分の右手を拾ってくっつけようとあたふたする。
一瞬、なにか閃光がはしった気がする。
背後から剣を持った男が現れた。
「強姦は死刑だ。だがもう利き手で狩りはできまい。それを罰とせよ。それとも、お前の股の“利き手”も狩ってやろうか?」
金髪の青年だった。ご多分にもれずイケメンだ。
「この場から去れ」
まるで、映画のような登場シーンだ。“白馬の王子さま”っていうのはこういうことなんだな。
男は混乱しながら、半ケツを見せながら去って行った。
なんと“王子さま”は、倒れている男の右手も切り落とした。わけわからず起きあがった男も、混乱しながらどこかへ去っていった。
力でレイプしようとする男に、同情心なんて生まれなかった。
“王子さま”は、オレの下半身を隠すように、布製のマントをかけてくれた。
ザ・RPGの主人公みたいで、相場はどこぞの国の王子といったところか。でも、この布製のマントや出で立ちからすると、貴族系ではないとわかる。
彼の野営地に連れていってくれた。すぐそこの川岸だった。彼の馬が水浴びをしていた。白馬ではなかった。
「助けてくれて、ありがとう……」
沸かしてくれたミルクを手に、オレは礼を言った。
「ちょうどここから、騒がしい声が聞こえてね。気になって行ったら、あなたが襲われていたんだ」
オレはついさっきまで、36歳のおっさんだ。それが、美女になってレイプされそうなところに、イケメンに救われるとは。
ありえない物語に、おかしくて吹き出しそうになった。
「? 大丈夫かい?」
「あ……。だ、大丈夫……」
オレは女だ。だから、女にならなくては。女の言葉づかいをしなくては。
……なんて思ったが、それはムリだ。オレは男だ。さっきのレイプでも、死ぬほどの屈辱だった。
性同一性障害っていうのは、こんな感じなんだろうか。もしそうなら、“女は女らしく”とか“男は男らしく”とか、できないものはできない。それを強要されるとなると、これは自分を自分で殺すことになる。つらいな……。
やりたくないことはやりたくない。美女として生きると言ったけれど、“男勝りキャラ”で通すことにした。
「わたしはカッタ村のオルファ。あなたはの名前は?」
きれいな金髪が、風にゆらいでいた。雰囲気もキラキラしている。
「わたしは……。……ビアンカ。ビアンカ……です」
とっさに出た名前がビアンカだ。国民的RPGの5作目で、オレは“フローラ”ではなく“ビアンカ”を選んだのを思い出した。
「ビアンカ……。いい名前だね」
彼はケトルで自分のコップにもミルクを注いだ。
「ビアンカ、そんな格好をしてひとりであるいていたら、襲ってくださいと言ってるようなものだよ。魔族よりも、人間のほうが悪人は多い」
“魔族”。
この言葉を聞いて、興奮した。ほんとうにRPGの世界なんだな。
「ちょっと転んでしまって服がやぶれて……。それで、街に行って、服をなんとかしようと思って」
「よし、わかった。ビアンカ、わたしもリリカランに向かうところだ。いっしょに行こう。ここで出会ったのも、なにかの縁だ。それに、元の格好であるかないほうがいい。そのマントを貸しておくよ」
あの街の名はリリカラン……。半券の裏に書かれた地名ではなかった。
「いますぐ出発すれば、夕方には着くだろう」
彼はたき火の火を消し、馬のサドルバッグに荷物を積みはじめた。
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