第33話:公爵令嬢の里帰り 4
和やかで、そして何かのきっかけになったであろう夕食から数日。
明日は、これまでよく話していた始まりの街”サクリファス”へ見学に行く日だ。
と、そんな身構えなくても、馬車で1日程度の距離だ。
間に宿場町が一つ用意してあるので、そこで一泊して二・三時間で到着してしまう
それなりに近い街である。
本日の夕食にも、お祖母様は来てくださっている。
隔日くらいで一緒に食べるようになっており、今日はその一緒に食べる日なのだ。
そこで、予てから思っていたことを聞いてみた。
「お祖母様、やはり明日は一緒にサクリファスへ行きませんか?
馬車も新しくなりまして、揺れを軽減してくれるようにもなっているので、座っていても楽なんですよ」
「…はっ…、私が居たところで何を話すわけでもないじゃないか。
それに、久々に静かな屋敷に戻るんだ。
清々するってもんだよ」
「お義母様ったら……」
「リース、お祖母様にあまり無理を言うもんじゃないよ。
最近は、寝て起きるのも少し辛くなってきておられるんだ。
離れから屋敷まで歩いて来てくださるだけでも、一苦労なんだぞ?」
「えっ…、お祖母様…そんなに悪いのですか?
それなのに態々此方まで出向かせてしまっていたなんて…大変申し訳ありませんでした」
「ユンゲ! 適当な事言うんじゃないよ! あたしゃピンピンしてるよ!
なーにを、人を病人みたいに事ぬかして…勝手によぼババアにするんじゃないよ!
死ねったって死んでやるもんかね」
「おやこれは失礼しました。
馬車で一日程度の場所へも億劫で出かけられないようなので、てっきりもうお体が悪いのかと…」
「バカ言うんじゃないよ! 馬車で一週間だろうが一ヶ月だろうが、なんなら歩き詰めだって平気な体してるっていうんだよ! サクリファス程度、いつだって行けるさ」
「あら、お義母様。では、明日はエアリースやクローズ等と一緒に来てくださるという事で、宜しいかしら?」
「えっ……、くぅっ……! お前達夫婦は全くっ……! あぁ、分かったよ!
何処へだって行ってやるさ! 馬車が冷ややかになったって、もう知らないからね!」
「まぁっ、お祖母様! 本当ですか! 嬉しいですわ! 明日が楽しみですね、お兄様!」
「あぁ、本当にそうだね、リース。
お祖母様とお出かけなんて何年ぶりだろうね?」
飛び跳ねて喜ぶ俺を諌めながらお兄様がつぶやいていたのが印象的だった。
そして、いつかに俺に向けていたこのイタズラが成功した子供のような顔を夫婦そろってしている事を
今回ばかりは、許してやろうと思う。
ナイス連携プレイだったよ、お母様達。
そして翌日、妙に嬉しそうなお祖母様付きの侍女、ホワイト=ルシアンも連れて、サクリファスへと出発した。
ホワイトは、お祖母様よりも妙齢で、男爵家の出らしい。
ルシアン家というのは、結構前に既に没落してしまい、ホワイト以外の一族はもう居ないそうだ。
悪いことを聞いてしまったなぁと苦い顔をしていると
「エアリース様、お気になさらないでください。
私にとって家は、メルザ様のいる場所なのでございます。
私が奉公に来てそのうちに、ルシアン家も無くなってしまいましたし、そもそも無くなった原因も自業自得。
人様のせいでは無いのです。
その時点で、私は”元”家に見切りを付けておりますので、エアリース様が気に病むことなど何一つございませんよ」
そこから聞けば、お祖母様が四歳から既にお祖母様付きになっており、もう六十五年もの付き合いなんだとか。
「そうなんだ。だからね、ここにいる僕らは母上を含めて、皆ホワイトに頭が上がらないんだよ」
「ふんっ! ただの腐れ縁さね! こんなヤツ、死にぞこないが死にぞこないの世話なんてしてさ」
「あら、メルザ様のおもらしを必死で毎朝洗濯したのは誰でしたっけねぇ?」
「お、おいホワイト! そう云う話を持ち出すんじゃないよ。何年それでイジるつもりだい!?」
あのお祖母様が本当に手玉に取られてると、馬車の中は笑いに包まれながら
恙無く、サクリファスへと辿り着いたのだった。
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