第29話:公爵令嬢の再会 2

 小一時間ほどで王宮へと辿り着き、前回と同じくホールへ入った所で早速お父様達は他貴族の方達に囲まれた。

 お兄様目当てっぽい女性方と同じくらい、若い男性方も多い気がする。

 お父様達への挨拶もそこそこに、次は俺達までそれに続いて囲まれてしまった。


 だが、そこは流石に場馴れした家族達だ。俺はお父様とお兄様に両サイドをガッツリホールドされ、誰某から一方的に話を振られる事が無くて助かった。

 実際ヤバかったぜ…大して学も無いのに質問攻めされても、有能のヴェールが引っぺがされちまう所だ。


 お父様に

「此方の方は何処そこ家の……───」

 云々と紹介を頂きつつ、挨拶をして行く。自分よりも遥かに焦っている相手を目の前にすると、自然と余裕が生まれるもんだね。


 というか、列が途切れない…。一時間前に会場入りしたのに、相当数が既に居るとか…。

 しかも、まだ今からやってくる人達も列に加わるもんだから、マジで終わりが見えない。

 会場を丁度三つに分けて綺麗に人が分かれてるみたいだ。


 到着してから、一時間ちょっとして、漸く怒涛の挨拶ラッシュも終わり、小休止に入ろうかという所で、ファンファーレが鳴り響く。

 …えぇぇ…。もう舞踏会始まっちゃうの…? 休む間もないとは本当にこの事じゃないか。

 でもまぁ、お兄様の誕生日ほどじゃないか…。あれを思えば、大概の事は耐えられる気がするな、よし! 頑張ろう。


 ファンファーレの中を、本日は前回と違い、にこやかな国王王妃夫妻が、ゆっくりと登場する。

 国王様方がご着席されるとほぼ同時に、今度は随分と不機嫌そうな雰囲気を醸し出したロイス様が登場する。

 おやおや?

 親子喧嘩でもしたのかな? にしては、片方が随分と機嫌が良いみたいだけど…。

 まぁ、あれが演技の可能性だってあるしな、まだ分からんよな。

 家であんなでも、お父様達だってそりゃもうドデカいネコの皮を被ってるわけだし。


 何はともあれ、一曲目が流れ始めた。それに合わせて国王様方が前へ出て、踊り始める。

 相変わらず洗練された動きだこと…。

 一曲目が終わり、席に戻って行く…のはスペルド様だけ。

 入れ違いで入ってきたのは、ロイス様だ。

 おやおや? これはどういうことだ?


 結構な歓声が上がってる、主に黄色い声で。


「ほほう…。もう十八になられたからなぁ。逆に遅いくらいだったけど…」


「お父様、何故ロイス様がバヨネッタ様と? 前回は国王様と一度踊って直ぐにお席にお戻りになられましたよね?」


「ん? あぁ、リースはまだ知らないよね。あまり無い事態だしさ。あれは、未だ婚約者が見つかって居らず、且つ正式に婚約者を求めていますって意思表示なんだよ。考えてみれば、三年は遅い気もするけど、とりあえず漸く本腰を入れたって事だね」


「へぇ…そうなんですね。…あ、ですが、一国の第一王子ともなれば、他国からも自国内からも引く手数多だと思うのですが、之までは一体どうしていたのでしょう?」


「だから珍しい事態なんだよね。大概は、そういう声が必ず上がるから、正式に意思表示する前に相手が決まってしまうものなんだよ。よっぽど本人がゴネてたかだなぁ…。…本気で気をつけないとな…色々と…」


「…えっ? どうかされましたか、お父様?」


「ん? いやいや、何でもないよ。それよりも、さぁ。もうそろそろ終わって、皆中へ行くよ。一先ず今回も最初はクローズと行っておいで。僕たちは先に王への挨拶を済ませちゃうからね」


 何だかはぐらかされたような気がプンプンするが、直ぐ後に本当に曲が終わって、皆一気に雪崩れ込んでしまったので、掘り下げる事も出来ないまま、お兄様の無邪気な笑顔にやられて、ヘトヘトになるまで踊らされてしまった。

 お兄様とのペアが終わった後も、同位のエシャロッツ家の三男とか、グーテンバーグ家当主とかと踊った後、引っ切り無しに来るペア希望にまたも休む暇も無く付き合わされた。


 いい加減高めのヒールが痛くなってきた頃、漸く小休止に入るという。

 よっしゃあ! やっと休める…と、とりあえずちょっと座りたいし、サンドイッチでも食いたいし、酒もほしい…。何せゆっくりと静かにしていたい…。

 有り難い事に、テーブル付きの椅子が空いてたので、そこへ逃げ込む事に成功した。

 此処に付いている間は、構ってくれるなって事だから、話しかけてくる奴はまだルールを覚えてない奴くらいしか居ない。

 た、助かった…。


 お兄様が気を利かせてくれて、俺がこの席を立たなくても良いように、軽食と飲み物を持って来てくれた。

 はぁ…本当に良く気がついてくれる人なのになぁ…。どうしても酒だけは飲ませたくないらしい…。ブドウジュースって、そりゃないよお兄様ぁ…。


「お疲れ様、リース。そっちも引っ切り無しだったね。リースを口実に、僕も抜け出してきちゃったよ。疲れたろう? この後は此処に終わるまで退避していると良いよ」


「お疲れ様で御座いました、お兄様。おかげで助かりましたわ。でも、そのようにして逃げるわけにもゆきませんので、私ならば大丈夫ですよ。普段から鍛えてるんですから!」


 一丁前に胸の前で両拳を作って、気丈に振舞ってみせる。正直ダルいし、今すぐにでも帰りたい気分だが、

 んなことを言っていられる立場でも年齢でもなくなった。やってやんよー俺は!


 下手に座ってしまって余計に重くなったような気がする足を引き摺り、小休止後の二曲目から立ち上がりホールへ戻る。

 早速、何処そこ伯爵家の息子だとか一代貴族だとかの方々と躍らせて頂く。

 しかしながら、後半は混合ダンスの曲が多かった為、誘い誘われと言うよりはホールに出てる人皆で踊る感じだったから、案外楽しめた。

 性懲りも無く王子様が誘いに来てくれてしまったので、しょうがなくペアダンスを踊る。何でこういう時に混合ダンスの曲じゃ無えんだろうな…。相変わらずの目の奥だし、本当に苦手だわこの人…。


 後半踊り始めてから、また更に小一時間後、宴も酣となり、一旦皆各々の位置へと戻る。

 王様の締め括りのお言葉を頂戴して、さて終わりかと一息吐こうとした時、更に話が続く。


「そして、此度集まってくれた卿らに、一点報告がある。今回、十五年前に馬車から転落し、行方不明となっておった第三王子が無事見つかった。

 我が国に多大なる貢献をしてくれ、また今も孤児をその細腕一本で育ててくれておるイスラ名誉子爵が、無事に保護をしてくれていた。

 就いては、本人にも王宮から書状を送り、了承を得てもらい、正式に第三王子として、王宮に入ってもらうこととなった」


 会場がどよめき、一気に喧騒に包まれる。あちこちで

「当時そんな話あったか?」

「いや、確かに宣言はあったが、病死じゃなかったか?」

 だとか憶測のようなものが飛び交っている。


「諸君、静粛に頼む。…感謝する。

 本日の舞踏会への参加を以って紹介としたかったのだが、あくまで平民として過ごしてきた身。ダンスや礼儀作法が間に合わず、このような最後での紹介となった事を此処に陳謝したい。

 では、改めて紹介しよう。本日を以って正式にランドグリス王家第三王子となる、イント・アルテミス=ランドグリスだ」


 そう、高らかに宣言がなされるとほぼ同時に、ファンファーレが鳴り響き、奥から王国式礼服に身を包んだ、つい数ヶ月前まで見慣れたサラサラの輝く金髪が歩き出てきた。

 その瞬間、会場をピンク色の溜息が包む。


 うっそぉ…。イント君やんけ…。

 ナニコレ? えっ、ドッキリ? 凄まじく不敬で盛大なドッキリこれ?


「只今ご紹介に上がりました、イント・アルテミスと申します。名誉子爵から頂いた名前を尊重すべきと、イスラ名誉子爵の姓を名として残し、改名させていただきました。この度は、私の覚えが悪いせいでこの様な登場の仕方になりました事、深くお詫びさせて頂きます。

 これから、しっかりと、王宮のしきたり等を覚えて行きたいと存じますので、皆様どうか、宜しくお願いします」


 そう言いつつイント君が深々と頭を下げると、会場は割れんばかりの拍手に包まれる。時折黄色い声援まで聞こえる始末だ。どこぞのアイドルか。

 俺が何がどうなっているのかと、呆けた顔をしていると、一瞬目が合い、偶に見る無邪気な顔でウインクをされた。


 …あ、両サイドの令嬢が倒れた。

 相変わらずやべぇ攻撃力だな…。


 最後にして、本日というか、新年の話題を全部掻っ攫っていった。やや後方のロイス様の詰まらなそうな顔が印象的だった。

 色々聞きたかったが、王族となってしまっては、おいそれと話しかけることもできないし、直ぐに引っ込んでしまったので、非常に悶々としながら家路に着くハメとなった。

 お父様には、事情聴取の場が必要そうだな。

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