エビデンスおじさん②
「大変申し訳ございません」
何度目の謝罪だろうか。何分も意味のないおじさんを注視し続けて、逆におじさんがだんだん透けてくる。おじさんのゲシュタルト崩壊が始まった。
「お前本当に謝る気持ちあんのか、口だけだろ!!本当に誠意がある人間は赤熱の鉄板に頭つけられるくらいあたま下げるぞ!!!」
あんたカ◯ジ知ってんのか知らんのかハッキリしろや。アタシ、利根川でも中間管理職でもなくて、ただのバイトだよ。まだ21歳の大学3年生だよ。
「お客様、いかがされましたか」
おじさんの怒号を聞きつけたのか、店長が駆け寄ってきてくれ、
「あんた、店長か。お前んとこの社員どうなってんだよ。適当なことしか言わねえよ。二万円使えとか、五千円からじゃないと遊べないとか!あと、当たんねえし、詐欺なら警察呼ぶぞ!!」
店長と目が合い、必死に訴えかけるそれはでたらめだと。
(店長、私は別にそんなことは)
(未希ちゃん、分かってるよ。心配しないで)パチッ☆
(あ、ありがとうございます!)
まるで声に出しているかのように今の店長とは意思疎通がスムーズにできている。流石店長!毎日部下の成長の為に私たちの事を考え行動してくれる管理職の立場は上辺だけじゃないみたいだ。でも、最後のウインクは気持ち悪い。
「当店のスタッフがそのようなことを申し上げていたのであれば誠に申し訳ございません。しかし、事実確認のために一つお聞きいたしますがお客様は、本日いくら使われましたでしょうか?」
「だから、2000円だって言っただろう!!!」
声の大きさと反比例して使った額は小さい。自己顕示欲が高い奴ほどブランド品で周りを固めるし、小象の男性ほど大きい車に乗っている。
周りの客も店長も、理解できないと言わんばかりの顔をしている。この男はたかだが2000円でなんでこんなにも怒っているのかと。この場にいる全員が2000円なんて負けに入らねえだろと思っている。店長も必死に言葉を探しているがなかなかふさわしい言葉がないようだ。
「えーーとお客様、先ほど当店の高野が申し上げた五千円からスタートする遊び方はもちろん根拠がある遊び方ではございません」
「だろっ!!!だから適当な事ゆうなって、根拠のあること言えって!!!」
「ですが、お客様っ!根拠のある勝ち方があったら、それはもはやギャンブルではないのではございませんか?もちろん根拠はないのですが、五千円、二万円ほど使うと当たりを引くまで粘れるというのは多くの方々が言っていることですので、一考の価値はあると思います。」
「お前とそこの姉ちゃんの言い分も分かった。でも、俺の台だけ裏で操作して当たらなくしてんだろ!!隣の駅のらす・べが~すで打った時は、同じくらいの金額で当たったぞ。この店やってんだろ!!」
「お客様、それ
「!!!、チッ。二度と来ねえわ。」
エビデンスおじさんも、自分の決め台詞を使われたのが相当心に突き刺さったのか、今までの勢いがうそみたいに無言で店から出て行った。帰った後に店長が、この手の客は強めに言ったら直ぐに帰るからこんな感じに対応するのが手っ取り早い。だけどできるなら、こちらもやり返したいからやり返すチャンスを伺いながら対応している場合もあるとこっそり教えてくれた。
その日から一時期、社員の間でエビデンスが流行語となった。
7/7 高野 未希
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