エビデンスおじさん①
「ッ、そこの姉ちゃん、ちょっと来てえ」
少しイラついた声が私を呼ぶ。絶対クレームだ。パチンコ屋でのクレームは多いし、難しい。お客様の多くは負けて店を出ることになるため、自然と不機嫌になってしまう。不満が積もり、店員に大声で怒鳴ったり、手を出してくるお客様も存在する、実際これはまだ対処しやすい方だ。だが、客同士でもめてしまうと最悪だ…。イライラして車のドアを強く開けたら、隣の車に当たってしまったや、席を奪われたなど事態を収拾するのにかかる労力が何倍にも膨れ上がる。だからこそ、パチンコ屋の駐車スペースは広かったり、食事休憩といったシステムがある。(店員に食事休憩と伝えると休憩札をもらえて、約40分ほど離席できます)
「はい、どうされましたか?」
至って普通のメガネをかけた清潔感も不潔感もないおじさんが私を睨みつけてくる。
「全然当たらないんだけど、俺がここ来るの初めてだから当たらないようにしてる?」
めんどくさ…、お金かかっているし気持ちは分かるけど。
「いえいえそんなことはございません。お客様全員が当たるわけではございませんが特定の台を操作して当たらなくしているわけではありません」
「でも、悪どい店もあるって聞くけどね」
わざわざクレームを言ってくる客がこんな説明で納得するわけないか。
「お客様は、来店されてからいくら分使われましたか?」
「2000円」
うん?……え、2000円?聞き間違えか。いやいや、うそでしょ。4パチでたった500玉で勝負しようとしてんの。しかも、このおじさんが打ってんの「CR弾球黙示録カ◯ジ」だよね。映画の「カ◯ジ2」見たことないのかな。映画で彼らは、一玉4000円もする金の玉を何千・何万発と用意して勝負してんだぞ、2000円負けただけで店の不正を疑うなよ、お前の台だけ穴から風吹きだして玉を宙に浮かせてやろうか。
「お客様、4円パチンコでしたら二万円前後、1円パチンコでしたら五千円前後かけると当たりも引きやすく比較的楽しめると言われております。なので、お客…」
「それ、
うん??え、エ、エビデンス?何でいきなり大学教授みたいな事言ってんの?
ゼミでレポート、論文を発表する際にエビデンスは?、先行研究との違いは?とか聞かれるけど、パチンコ店で一生使わない言葉でしょ。
「えーと、エビデンスは特にないのですが…」
「はぁ、店員が客に向かって根拠のないことを言うのはどうなんだ、デタラメ言ってんじゃねえよ!!!!」
台から流れる演出の音に負けないくらいの罵倒が続けて飛んでくる。火に油を注いでしまったみたいだ。「CR怒りのエビデンスおじさん」が回り始めた。私にはもう止められない。
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