第76話
「よし、これの作業はこれで終わり…あとは…」
法院召致を明日に控え、私たちは最後の確認作業を行っていた。今もまた一つの資料の作成を終え、私は一息つく。私の周りではレブルさんやミルさんもまた作業に当たってくれている。…けれど、そこにフォルツァの姿が見えなかった。私はキョロキョロと視線をさまよわせ、フォルツァの姿を探す。
フォルツァの姿をすぐに見つけられた私は、そのまま彼の隣へと歩み寄る。彼はバルコニーに立ち、月明かりに照らされながら何か考えている様子だった。
「…フォルツァ?大丈夫?」
「…あぁシンシア。夜風が気持ちいよ」
笑みを浮かべながら、私に手招きをする彼。月光に照らされる彼の顔は、やはり凛々しく美しかった。
私はフォルツァに誘われるままに、彼の隣に立って夜風を感じる。
「…気持ちいい」
連日連夜の作業で疲労した体を、心地よい風が癒してくれる。長い時間こもりっぱなしだったから、なおさら外の香りや吹き抜ける風が新鮮に感じられた。
「…いよいよ、明日ね…」
少し不安な気持ちを含ませながら、私はそう口にした。決してみんなを信じていないわけではないけれど、それでもやっぱり不安になってしまう…もしも明日公爵に負けたら、私たちはどうなっちゃうのかなって…
そんな私の不安を読み取ったのか、フォルツァは私の両手を自身の手で優しく包みながら、いつもの優しい笑顔で話し始める。
「シンシア、よく聞いて。自分では気づいていないかもしれないけど、君は本当に強い人なんだよ?思い出してみて?男爵と口論をした時の事、ケーリさんと財政に関して議論をした時の事、皇室会議で公爵やマリアーナと正面から戦った時の事、虚偽告発を受けてクロースさんたちの調査団が乗り込んできた時の事、いつも君は逃げることなく勇敢に戦ったんだよ?」
「私が…勇敢…?」
フォルツァは大きくうなずき、言葉を続ける。
「僕は何度も君の勇敢なその姿に勇気をもらってるんだ。だから明日だって、絶対に大丈夫」
「君が僕の隣にいてくれる限り、僕はなんだってできるんだからね」
フォルツァの暖かい言葉を胸に受け止め、私は深く深呼吸をする。…そうじゃないか。今までだって私たちは、何度も何度も困難に直面してきた。そのたびに私たちは成長して、困難を乗り越えてきた。そんな私たちが、こんなところで終わるはずがない。
「…うん、ありがとう…!」
私は全霊で彼に感謝の言葉を伝えた後、瞳を閉じて彼に顔を差し出した…のだけれど…
「おい、なにさぼってやがる!!」
「さぼってやがるー!!」
…間が良いのか悪いのか、レブルさんとシグナ君に見つかってしまった。
私たちは互いに笑いあいながら、不満げな表情を浮かべる二人の元へと戻っていった。
…そしていよいよ、法院での最後の戦いが幕を開ける…
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