第75話

――ゲルチア公爵視点――


「良し分かった。ごくろう」


 使用人からの報告を聞き、私は心からあんどする。ジョートの奴、まったく驚かせやがって…

 結局報告によれば、秘密書庫の資料は一つも持ち出されていなかった。つまりジョートの早とちり、ただの奴らの苦しまぎれのでまかせだったのだ。


「…ただの奴らのハッタリだったという事か…くくく、奴らも追い詰められているようだな…」


 法院に呼び出され、奴ら心底おびえているに違いない。きっと体も心も震えてどんな作業も手についていない事だろう。くくく、作戦通りだ。

 それさえ確認できれば、もはや私の勝利も安泰というもの。あとはこちら派の法院の人間に根回しし、適当な罪状をでっちあげてシンシアを追い落とすだけの簡単な仕事…しかし油断は禁物。前のような恥をかくわけには絶対にいかない。今度こそ逃げ道を用意せず、確実に仕留めなければならない。…これから今一度、私の味方の貴族たちにあいさつ回りをしておくか…私は側近の一人を呼び出して指示を出す。


「…この負債、例の方法で処理しておいてくれ。手に入った金は私の味方の貴族たちに公平にくれてやれ」


「承知いたしました」


 私の指示を聞き届けた側近は、素早い動きでこの場を後にする。さすがに何度も行ってきただけあって、もう慣れた手つきだな。

 その時、側近と入れ違いにマリアーナが私の部屋を訪れる。


「公爵様ぁ、明日は私たちの勝利に間違いはないのですよねぇ?♡」


 私の体に手を添わせながら、色っぽい表情で抱き着いてくる。まったく本当に素敵な女性だな、君は…


「ああ、もちろんだとも。奴らは結局秘密資料を掴んではいなかった。ただ虚勢を張っていただけだったんだよ」


「まぁ♡」


 うれしそうな声をあげながら私の胸に抱き着き、背中に手を回すマリアーナ。男心を刺激する彼女の匂いが鼻から脳へ突き抜ける。


「私は邪魔者には容赦はしない。次期皇帝の席にふさわしいのはフォルツァなどではなく、間違いなくこの私だ。私が帝国を導く運命なのだ!」


 そう、すべては決まっていることなのだ。少しばかり遠回りしてしまったが、明日完全に決着する。その時こそ、この私が次期皇帝の座を確かなものとする瞬間だ。


「見ててくれマリアーナ、必ず私は勝つとも…帝国の未来のために、私は勝たなければならないのだ…!」


「そうですわ!私たちの公爵様が、負けるはずがありませんわ!」


 私たちはそのまま体を重ね、全身で愛し合ったのだった。

 …次期にマリアーナとナナの二人を同時に体を重ねられる日が来る…その日が待ち遠しくてたまらない…


「…ぐふ、ぐふふふふ…」

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