第74話

「みんなー、夜食ができたよー!」


「できたよー!」


 私の言った事を、楽しそうにシグナ君が復唱する。…ああもうかわいすぎ抱きしめたい!!!

 …という感情を何とか押し殺し、平静を装う。シグナ君に私は頼れるお姉さんに映っているようだから、イメージを崩さないようにしないと…

 と考えていたら、心配そうにフォルツァが私たちの顔をのぞき込む。


「ご飯はすっごくうれしいけど、二人とも寝てないだろう?…大丈夫?」


 心配してくれるのはうれしいけれど、それは少し心外だ。私は胸に手を当ててフォルツァに抗議の声を上げる。 


「みんなが頑張ってるのに、寝てなんていられないよ!」


「いられないよ!」


 私の横に立つシグナ君もまた、フォルツァに抗議の声を上げる。フォルツァは笑いながらはいはい、分かったよと言い、説得をあきらめた様子だった。

 そんな時、どこからか女の人の楽しそうな笑い声が聞こえた。


「まぁまぁ…くすくす」


 私たちのやり取りを見て、笑みを浮かべていたのはマナさんだった。…って、マナさんいつの間に!?部屋で寝ていたんじゃ…


「ごめんなさい、楽しそうなお声が聞こえてきたものでつい」


 口元を手で隠してはいるものの、笑顔を浮かべているのがまるわかりだ。ここへ来てからというもの、マナさんは見違えるような回復を見せて、簡単な仕事ならもうすでに行えるレベルまでに復活していた。

 その肩はミルさんの力を借りてはいるものの、一人で動き回れるようになるのもすぐのことだろう。


「本当にここに来てよかった…あんなに楽しそうなシグナの姿、本当に久しぶり…」


「ええ…私もお二人にお仕えできて、本当に幸せですわ」


 互いに笑いあいながら、マナさんとミルさんがそう口にした。そのやり取りに胸が暖かくなるのを感じたものの、そう悠長にもしていられない。


「…で、そっちの方はどうだったんだ?」


 作戦会議へと話題を戻し、フォルツァに確認をするレブルさん。


「ああ、思った通りだった。調べてみたらジクサー伯爵のほかにも、公爵から負債飛ばしを受けたと思われる貴族がたくさんいたよ」


「やっぱり…」


 フォルツァの知らせに、私はそう言葉をもらした。被害にあっていたのはやはりジクサー伯爵だけではなかったのだ。


「問題はその裏をとれるかどうかだけれど…これには時間が…」


 マナさんがそう不安を口にする。彼女の言う通り、法院で公爵の不正を暴くには秘密書庫の場所の特定が不可欠なのだ。


「それに仮に秘密書庫の場所を突き止められたとしても、入ることができるのはきっと公爵ただ一人だけだろう?どうするつもりだフォルツァ?」


 そう、レブルさんの言う通りなのだ…仮に場所を特定できたとしても、どうやって中に侵入するのか、何も手立てがないのだ。

 しかし懸念点ばかりを話していても前には進めない。フォルツァは持ち前の機転の良さで皆を鼓舞する。


「…いずれにしても、法院招集は明後日だ。もう時間がない。僕たちは僕たちで最後までできることをやろう!」


「…僕たちは僕たちで…?」


 フォルツァの言葉になにか疑問を感じたのか、レブルさんが復唱した。すかさずフォルツァはその疑問に答える。


「僕らのほかにも、たくさんの人たちが動いてくれてる。彼らを信じて、僕らは僕らにできることをやるだけさ」


「ああ、なるほどな」


 …その通りだ。戦ってるのは私たちだけじゃなく、いろいろな人たちが私たちを信じて行動してくれているのだ。彼らの思いにこたえるためにも、私たちは最後まで自分のできることをやらなければいけない…!

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