第73話
――ケーリ視点――
「大変お待たせいたしました、こちらがゲルチア公爵家の財政資料の原本になります」
マリアチ皇室長が財政資料を手に、私の前に姿を現す。…申請したのはかなり前で、見つかったのがつい最近…やはり見つけるのには苦労されたようだ。私は彼に感謝の言葉を述べた後、そのまま続けて思ったことを伝える。
「これが出てきたという事は、やはり提出されたほうの資料は偽りのものでしたか」
「はい、そういうことになります。ケーリさんのお考えの通りです」
貴族は定められた周期ごとに、自身の財政資料を皇室監査部に提出しなければならない。目的は貴族が貴族たる資金運用をきちんと行っているか、そこに不正がないかどうか、真に領民のための活動ができているかどうかなどを帝国が監査するためだ。当然公爵家も財政資料を提出していたわけだが、あれは偽りのものであったという事が今はっきりした。
「皇室に原本があったという事は、偽りの資料の方は監査が終わった段階で破棄し、原本とすり替えるつもりだったのでしょう」
「ええ。全く…どこまで汚い人間なのか…」
そのような会話をはさみ、私は問題の公爵家財政資料の内容へと目を通す。これが原本であるのなら、公爵の決定的な不正がここに記されているに違いない。…しかし、その思惑は見事に読み切られていた…
「…ない…」
私がこぼしたその言葉に、皇室長は驚愕する。
「!?、ど、どういう事ですか!?」
「ここには肝心の、公爵が他の貴族に負債を移したという記載だけがないのです…」
「な、なんですって…」
…やられた、としか言いようがない。公爵はこうなることも想定し、ここに負債飛ばしの証拠となる記載を一切残さなかったのだ。
「…それはつまり、その記録だけ、公爵が別に保管したと…?」
「…あるいは、そのジョートなる人物が話した公爵様の負債飛ばしそのものがでっち上げなのかもしれません…」
決定的な証拠がつかめるはずが、逆に追い詰められてしまう結果となった。…この裏資料の存在を公爵様に突き付けたところで、適当な言い訳でかわされるだけだろう…決着をつけるためにはやはり…
「…秘密書庫を探るしか…」
そう、公爵様がひそかに保有しているという秘密書庫、やはりそこを探し出すしか方法は…
「実はその事なんですが…」
しかし私がそう考えていた時、皇室長がなにか言いづらそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「…帝国兵までも動員し、秘密裏に公爵家一体を大規模に捜索したのですが、それらしい場所は見つからず…」
…これは本格的にまずいかもしれない。
「…法院召致は確か3日後でしたね?」
「ええ」
「これは急がなければいけません…間に合わなければ、公爵は今度こそどんな手を使ってくるかわかりません…」
私は約束したのだ。必ずやお二人に帝国の未来を導いていただくと。こんなところで諦めるわけにはいかない。絶対に。
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