第68話

 声の主は他でもない、フォルツァであった。どうやら公務を終えて戻ってきたらしい。…けれど、探す手間が省けたっていうのは…?


「あなたとお話がしたかったのです。亡くなったジクサー伯爵の臣下の一人だった、ジョートさん」


「…!」


 少しばかり空気がひりつく。そんな様子が怖かったのか、シグナ君が私の足にしがみついてくる。私は姿勢を低くし、シグナ君を抱きしめながら言葉をかけた。


「…大丈夫だよ、シグナ君」


「う、うん…」


 そして相変わらずジョートさんを取り押さえているレブルさんが、フォルツァに説明を求める。


「フォルツァ、どういう事だ?」


 一間をおいて、フォルツァはゆっくりと説明を始める。


「先ほど私は、皇室の監査部に保管されている伯爵様の財政資料を確認してきたのです。そこにはいくつかの不審な点がございました」


「っ!!」


 フォルツァのその言葉に、明らかに動揺している様子のジョートさん。そんな彼に構わず、フォルツァは説明を続ける。


「不審な点に関しては今もなお調査中ですが、確かなことが一つあります」


 フォルツァはジョートさんに一歩詰め寄り、核心をつく。


「…伯爵様の死後、あなたは伯爵様の資産の一部を受け取っていますよね?それもわざわざほかの貴族家を経由して」


「…!」


 ジョートさんは歯ぎしりをしながら、こぶしを強く握りしめているように見える。…その表情は悪事が露見することを恐れているというよりも、どこか悔しそうで悲しそうな表情だ。


「しかも臣下の方々の中で、伯爵様の資産を受け取っていたのはあなただけのようですね?一体どういうことですか?」


「…おい、答えろ」


 相変わらず沈黙を貫くジョートさんにレブルさんが追撃をかけるが、彼はそれでも何も話さない。しかしフォルツァは構わず説明を再開する。


「…マナさんやシグナ君でさえ伯爵様の資産は全く受け取っていません。それなのに、あなただけがどうしてそれを受け取っていたんですか?それも直接受け取ったのではなく、わざわざ足がつかないようにほかの貴族家を経由して」


「…うっ…」


 ジョートさんは少し嗚咽をもらしたものの、言葉での返事は相変わらずしなかった。


「おい!早く答えろ!」


 レブルさんが荒い声でジョートさんに詰め寄る。シグナ君はレブルさんの声にびっくりしてしまったのか、より強く私にしがみついてくる。


「っ大丈夫よシグナ君、大丈夫」


 …私はシグナ君をここから移動させるべきかどうか、少しだけ迷った。まだ子供のシグナ君に、この光景は酷なのではないかと考えたから。…だけど、私は彼をここに残すことに決めた。お父さんの死の真相を知る権利が彼にはあるのだから。なにより、彼の目がここに残ることを望んでいるのだから…

 レブルさんの詰めが効いたのか、ジョートさんがついにその口を開いた。


「っ仕方が無かったんだ!!!!!」

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