第67話

「そうそう!シグナ君上手!」


「えへへ…ありがとう!」


 そう言葉を交わしながら、私はシグナ君の頭をなでる。シグナ君は本当に要領のいい子で、教えている私自身も信じられないくらいの上達ぶりだ。もうすでに簡単なお料理ならマスターしているように見える。


「それじゃあ次は、こっちをやってみようか!」


「うん!」


 そんな様子でシグナ君との時間を送っていたその時、突然屋敷の外から大きな音が聞こえてきた。何かガラスが割れたような、あまり穏やかとは言えない音だった。それが気になった私はシグナ君を連れ、急いで音の発信場所に向かった。

 屋敷の外に出てみると、見知らぬ男性をレブルさんが取り押さえていた。どうやらさっき聞こえてきたあの音は、二人が争っている時に何かの拍子で近くに置かれていた瓶が割れてしまった時のもののようだ。

 謎の男の人を完全にとらえたレブルさんは、彼に質問を投げかける。


「…お前何者だ?さっきからずっと屋敷をのぞいてたみたいだが」


 男の人は震えながらレブルさんの質問に答える。


「わ、私はただ通りかかっただけで…別に何もしていませんってば…」


 しかしその時、私の後ろに隠れながら男の人の顔を確認したシグナ君がボソッと一言つぶやいた。


「…ジョート…さん…?」


 男の人もまた声を発した人物のほうへと視線を移し、その顔を確認した瞬間顔色が変わる。


「シ、シグナ…様…!?」


 男の人は悲しそうな、けれども嬉しそうな、複雑な表情を浮かべながらそう言った。


「なんだ?知り合いか?」


 二人のやり取りを聞いたレブルさんは、視線を男の人からシグナ君の方へと移す。シグナ君は私の後ろに隠れて私の手を強く握りながら、その質問に答えた。


「は、はい…お父さんの臣下の方です…」


 し、臣下の方って…!?


「…おい、どういう事だ?」


 レブルさんは再びジョートという人の方へと視線を戻す。


「…」


 彼は俯き、質問に答えない。私もレブルさんに続き、彼に言葉を投げる。


「あなたは伯爵様の事で、何か知っていることがあるんじゃないですか??だからここに来たんじゃないですか??」


「…!」


 彼から返事は得られないものの、私は言葉を続ける。


「お願いします!!何かご存じの事があれば、私たちに話して下さい!!ジョートさん!!」


「…!」


 それでも彼は答えなかった。しかし彼の表情は、自身が何かと葛藤しているように見えた。沈黙の時間はしばらくの間続き、私たちが再び彼に言葉を発そうとしたその時、別の人物の声が聞こえた。


「これはこれは、探す手間が省けたというものです」

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