第58話

「…それにしてもこの地図、本当にあってるのか…?全然目的地に近づいてる気がしないんだが…」


「うーん…あの二人の事だから、間違ってるとは思えないんだけど…」


「…」


「…」


 …いま私たちが何をしているかというと、私とフォルツァは近くの茂みに身を潜めて、レブルさんとミルさんの尾行をしている真っ最中。…一体なぜこんな事になっているのかというと、事の発端は昨日までさかのぼる。


――――


「シンシアシンシア、ちょっとちょっと」


「??」


 私が廊下を歩いていた時、不意にフォルツァが自室の扉の隙間から小声で言葉をかけてきた。…なんだろう?秘密のお話かな…?

 私はその手に招かれるまま、フォルツァの部屋へと足を踏み入れた。私が部屋に入ってから、フォルツァは何度も周囲をキョロキョロと見まわして、誰もいないことを確認したのちに扉を閉めた。


「そんなにキョロキョロして、一体どうしたのフォルツァ?」


 フォルツァは腕を組み、どうしたものかといった表情で私に答える。


「いやねシンシア、あの二人見てどう思う?」


「あの二人?」


「レブルとミルさ」


 意外な人物の話題が上げられたことに、私は少し拍子抜けする。


「うーん、すっごくお似合いだと思うけど…」


「でしょでしょ??シンシアもそう思うよね??」


 決して私たちがはしゃいでるだけというわけではなく、完全に二人の態度からもばればれなのだ。


「本人同士も、相思相愛にしか見えないし…」


「だよねだよね!!それでシンシアと相談したかったんだ!」


「??」


 その後フォルツァは、自身の考案した二人の距離を縮める作戦を私に披露し始めた。


――――


 フォルツァの作戦その1、売っていそうで売っていない物を売っていると言い張って、その買い物を二人に頼む。その2、あえて目的地周辺がでたらめな地図を二人に渡す。それもサイズのかなり小さなやつ。その3、これらの作用で二人きりの時間を増やす。その4、いい雰囲気になったのを見届けてから私たちは引き上げる。以上。

 ちなみにフォルツァには、今日中に二人のキスを見届けられる自信があるらしい…


「ほ、ほんとにこれでうまくいくのかなぁ…」


 まわりくどすぎるというか、もっとシンプルな事でもよかった気もするけど…


「うーん、思いついた時は完璧な作戦だと思ったんだけど、何か足りなかったかな…?」


 そう言いながら、右手を顎下に置いて考えるポーズをするフォルツァ。…かつて隣国の襲撃を退けたというその軍作戦参謀ぶりの知能は、一体どこへやら…


「あ、見てシンシア!小さな地図を二人でのぞき込んでるから、めちゃめちゃ密着してるよ!」


 そ、そんな二人とも子どもじゃないんだし…


「そ、それだけじゃ…あ、あれ?」


 …よく見てみると二人とも、なんだか顔が少し赤くなってるような…?あ、あの二人ってそういう感じなの!?

 …そういえば前に、二人の手が触れ合っただけでお互い顔が真っ赤になってたことがあったっけ…

 ならなら、あのいかにも恋愛経験豊富そうな二人が実は初心だったりしたら、も、もしかしてこの作戦、あの二人にはなかなか有効なんじゃ…?

 それにさっきから二人が何か言ってる…私たちは全神経を両耳に集中し、二人の会話を聞き取ろうと努める。


「目的地どこなんだ…って、あ、あんまりくっつくなって!」


「み、見えないんだから仕方ないじゃないっ!」


 …な、なんだか思ったより二人ともいい雰囲気かも…

 私がフォルツァにその旨を伝えようとした時、事件が起こった。

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