第57話
一体、ナナはどんな情報を…
「ナナ様いわく、今回の公爵様の動きにはまだなにか裏がありそうだと」
今回の一件、私を追い落とすことが全ての狙いだと思っていたけれど、それ以外にナナにはなにか引っかかる事でもあったんだろうか?
「どうやら今回公爵様は、貴族や皇室の関係者を味方にするために相当な賄賂を使ったそうなのです。しかし一体どこからそれだけの資金を調達したのか、非常に怪しいと」
い、言われてみれば確かに…しかしそれだけで疑うのは早計な気もする…私はその旨をケーリさんに話す。
「でもそれだけじゃ、何も分からないんじゃ…?」
「はい、今のところは何も分かっておりません」
私の言葉にうなずき、返事をするケーリさん。しかしその後ケーリさんはこう続けた。
「しかし本当にそこに何か裏があるのなら、公爵様への告発返しが可能となります。公爵様を追及する上で、最大の切り札となりましょう」
「な、なるほど…」
今回の一件で私たちに敗北した公爵は、ただでさえ味方の人たちからの信用を落としたはず。そこにそんな証拠が出てくれば、彼を終わらせることだってできるかもしれない。
「その証拠を見つけ出すまで、ナナ様はお屋敷に残られるそうです」
そうか、ナナが一緒じゃないのはそう理由で…彼女は本当に、私たちと共に戦ってくれるらしい。…どんな結果になったとしても、ナナとはきちんと話をしないといけないな…
「私も今後しばらくは、そのお手伝いをさせていただこうかと考えております」
いずれにしても、これで終わりというわけでは到底なさそうだ。私ももっともっと頑張らないと…
そしてケーリさんの報告がすべて済んだところで、フォルツァが私に声をかけてくれる。
「本当にありがとうケーリさん。…しかしそれにしても、今日は疲れたね…シンシア、あの公爵相手に本当によく頑張ったね」
フォルツァはそう言ってくれるけど、私は全然みんなの力になれては…
「そんな…私は結局フォルツァやみんなに助けられてばっかりで…」
そう口にする私の手を、やさしくフォルツァが握りしめる。
「そんなのはお互い様だよ。僕だってどれだけシンシアに」「あの」
フォルツァの言葉をさえぎり、ケーリさんが口を開く。
「…大変恐縮ですがお二人とも、何か大切なことをお忘れではありませんか?」
「「?」」
もう何も課題はないはずだけど…私もフォルツァもケーリさんの言葉の意図が分からず、頭上にはてなマークを浮かべる。しかしケーリさんのその言葉を聞いた途端、レブルさんをはじめ私とフォルツァ以外の人たちがゆっくりと部屋を去っていく。…あ、あれ?
そして皆が去った理由を、次にケーリさんの口から発される言葉によって理解する。
「これより、財政監査を始めまさせていただきたく思うのですが」
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
「ちょっとまって!?今から!?」
私の心の中を代弁するように、フォルツァが悲痛な声を上げる。わ、わざわざ今からやらなくても…
「恐れながら私には時間がなく、やるなら今しかございません」
「な、なら無理してやらなくてもいいんじゃ…?」
フォルツァに続き、私も命乞いの言葉を発する。しかしその言葉はケーリさんには届かなかった。
「せっかく連結資産表が手元にあるのですから、やらない手はございません」
…もう、私たちにはどこにも逃げ道はないみたい…
「トホホ…」
ウキウキのケーリさんを前に、感情をそのまま言葉にするフォルツァ。一方で私はケーリさんとのやり取りの中に、どこか懐かしさと安心感を感じていた。
「…クスクス。こうなっては仕方ないわフォルツァ、一緒に頑張りましょ」
結局私たちはその後一日中、ケーリさんにしぼられるのだった。
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