第51話

 公爵の後ろから、もう一人の人物が姿を現す。


「公爵様、さっさとはじめましょう。こんな反逆者なんかと一緒にいたら、フォルツァ様もかわいそうですわ」

 

「…」


 私を挑発するように、そう言葉を投げるマリアーナ。その卑しい表情は、あの皇室会議の時から何も変わっていなかった。


「それではみなさん、こちらへどうぞ」


 二人に言葉は返さず、調査団の案内を始めるフォルツァ。普通なら無視するなと怒り出しそうなものだが、すでに勝ち誇った気でいる二人はそんなこと全く気にしていない様子だ。

 フォルツァを先頭に、私たちと十数人の調査団が屋敷内の会議室を目指して進む。私たちに会話はなく、通り慣れた通路をただただ無言で進んでいく。そのとてつもない雰囲気に押しつぶされそうになるものの、私は隣を歩くフォルツァの手を握って、なんとか心を落ち着かせる。


「どうぞ、おかけください」


 フォルツァのその言葉を合図に、調査団の人たちが机に向かって椅子に腰かける。全員分の資料がきちんと用意されているところを見ると、間一髪で準備自体は間に合ったようだ。本当にレブルさんたちはすごいな…

 重い沈黙が会議室全体を包む中、全員が席に着いたのを確認したクロースさんが口を開いた。


「それではこれより、本件に関する調査を」「クロース君、ここからは私がやろう」


 …公爵がクロースさんの言葉を遮り、勝手に仕切り始める。…調査会議は担当官が仕切るのがルールだと聞いていたんだけど、なんて勝手な…


「さて皆さん、本件に関するシンシア様の罪は明白であります。こちらの資料をご覧ください」


 公爵のその言葉を合図に、調査団の一人がカバンから資料を取り出して全員に配布する。…目の前に配られたその資料を見て、私は驚愕する。…これは、うちの財政資料…!?


「さて、これはあるルートより入手したあなた方の財政資料です。ここにはいくつもの、不自然な金の流れがありますなぁ」


「まぁ、なんてことでしょう!これは大変ですわぁ!」


 わざとらしく驚くマリアーナ。


「…!?」


 私は出されたその資料に、震えが止まらなくなってしまう。…この資料を公爵やマリアーナが持っているということは、フォルツァに近しい人物の誰かが公爵たちに流したということなんじゃ…それはつまり、裏で公爵とつながる裏切者がいるということに…


「…この資料、いったいどこから?」


 当然フォルツァも同じことを考えたのだろう。資料の出所を公爵に問いただす。


「詳しくは言えませんが…皇室の関係者、とだけ申し上げておきましょう」


 公爵の発したその言葉に、私たちは皆絶句してしまう。…皇室のほうはマリアチさんが何とかしてくれているはずだけど、それでも上手くいかなかったんだろうか…?


「…ど、どうしようフォルツァ…」


 ほかの人に聞こえない程度の声で、フォルツァに言葉を投げる。しかし私の言葉は聞こえただろうに、フォルツァは私に答えず資料にくぎ付けの様子だ。

 そんな私たちの様子が面白くて仕方がないのか、公爵は薄汚ない笑みを浮かべながら口を開く。


「さあさあ、時間はたっぷりあります。きっちりすべて説明していただきましょうかねぇ」

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