第50話

「フォルツァ様!見張りから連絡です!!調査団がもうすぐそこまで!!」


「…そうか、分かった」


 不眠不休での作業の終わりを迎える連絡だというのに、まったくうれしくないや…


「ちっ。準備完了まであともう少しだってのに…」


「用意できなかった分は、聴取の場にて答えるしかありませんね…」


 悔しそうな表情を浮かべるレブルさんに、そう言葉を発する私。しかし自分で言っておいて何ではあるけど、その場で答えるなんてできるんだろうか…?


「レブちゃん、破棄資料の処分はちゃんと終わってる!?」


「当たり前だ!誰に言ってやがる!」


 見られたらいちゃもんを付けられる恐れのある資料などはミルさんが判断し、レブルさんが処理を担当していた。…すっごく仕事のできるこのメンバーでさえ間に合わなかったんだから、やっぱり絶対間に合わないじゃないか…と、今そんなことを思っても仕方のないことではあるけど、どうしても思ってしまう。

 その時、ついに最後の知らせがもたらされる。


「い、いらっしゃいました!!」


 使用人のその言葉を聞き、私たちは急ぎ門の前で迎える姿勢を整える。それは一瞬にも感じられたし、一時間にも感じられた。

 ぞろぞろと調査団の人たちが屋敷の前に姿を現し、列を整える。調査団の代表と思われる人物が一歩前に出て、簡潔に自己紹介をする。


「本件の調査団の統括を務めます、クロースと申します」


 こちらの代表としてフォルツァが一歩前に出て、同じく簡潔に自己紹介をする。


「私がフォルツァ、こっちがシンシアです」


「よ、よろしくお願いします!!」


 何にも悪いことはしていないんだから堂々としていていいんだよ、とは言われているものの、やっぱり体が緊張してしまう…

 クロースさんが私に一礼をした直後、彼の後ろから私たちがよく知る人物の声が聞こえた。


「やあやあフォルツァ様、あの皇室会議の時以来ですなぁ。お変わりなさそうで何より」


 今回の件の主犯であり、私たちにとっての最大の障壁、ゲルチア公爵…


「いや、お変わりないはずはありませんなぁ。あろうことか、ご婚約相手の女性が帝国の反逆を企んでいたのですからなぁ!」


 もうすでに勝ち誇った表情で、フォルツァに歩み寄って声を上げる公爵。


「ええ。帝国に反逆の意思がるのは一体誰なのか、この調査で明らかになる事でしょう」


 公爵の挑発には乗らず、あくまで冷静に言葉を返すフォルツァ。


「ぎしし。彼女の入る牢は私がご用意いたしましょう。魅力的な衣装やおもちゃをたくさんご用意させていただきますよぉ。ぎしし」


 …私を見ながらそう言葉を吐く公爵の姿に、文字通り虫唾が走る。…そして公爵の後ろからもう一人、同じく私たちの最大の障壁となる人物がその姿を現した。

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