第49話

--マリアーナ視点--


 協力貴族からの情報によると、私たちの仕掛けた奇襲攻撃は大成功を収めたようだ。


「さすがは公爵様♡私は初めから信じていましたわ♡」


「ぐふふ。そうであろう?ぐふふふ」


 …気持ちの悪い笑みを浮かべる公爵。…あの女を追い落とすために仕方のない事とは言っても、こいつに尻尾を振るのはなかなかに背筋が凍る思いだ。


「調査団の強制執行認可さえおりれば、いつでも奴らのところへ乗り込めるぞ。そうなればやつらもおしまいだ!はははは!!!」


 高らかに笑いながらグラスのお酒を口に運ぶ公爵。


「…そうなれば、次の皇帝の椅子に座るの、は?」


 私はそう言いながら、公爵のグラスにお酒を注ぐ。


「ははは!!もう決まったな!!妃候補が反逆罪を画策したなど、フォルツァもおしまいだ!そしてそんなやつを推挙したマリアチもな!っはははは!!!」


 公爵派の貴族は多い。前のようにこの人がしくじったとしても、きっと彼らがバックアップしてくれることだろう。彼らには今回のために相当な賄賂をばらまいてやったのだ。そして今後の働き次第では、もっとやってやるとも言ってある。…公爵位ともなると、本当にお金には困らないのね。

 …などと考えていたら、下心が見え見えの公爵の手が私の肩を這う。


「…マリアーナ、今夜は前祝いだ。二人で朝まで、愛し合おうじゃないか…」


 …公爵が耳元でそうささやいてくる。…私は必死に震えを抑え、彼の機嫌を損ねないように細心の注意を図る。


「もう、公爵様ったら…♡」


 その時、遠目に私たちを見つめるナナの姿が目に入った。私は彼女と話をするため、一旦公爵をこの場からどかせる。


「…公爵様、先に寝室に行っていてくださるかしら?」


 …これから私と寝られることを確信した公爵は、より一層上機嫌になる。


「おっけー!待っているよ!」


 部屋を後にする公爵を見届けた後、私はナナの元へ歩み寄る。


「ナナ?どうしたの?」


「…」


 何も言わず、どこか不安気な表情のナナ。きっと、これからの事が不安なのだろう。私は彼女の両肩にやさしく手を添え、言い聞かせを始める。


「ナナ。あなたは公爵様と結ばれて、この帝國の誰よりも幸せな人生を送るのよ?」


「欲しいものは何でも手に入るし、権力だって思いのまま。公爵様も早くあなたと結ばれたいと、毎日のように私にお話になるわ」


 …それでもどこか不安気なナナ。


「これはあなたのためなの。ナナ、分かるわね?」


 私の思いを分かってくれたのか、ようやくうなずいて返事をしてくれるナナ。


「…それでお母様、シンシアたちをどうやって追い落とすの?」


 そうか、ナナの不安な点はそれだったのか。私は彼女の不安を取るため、嘘偽りなく説明する。


「公爵様は、相手が一切弁明できないように準備資料外から責め立てると言っていたわ」


「つまり、私たちの勝利はもう決まっているの。だから安心しなさい?」


 ナナは笑顔で分かりましたと言い、部屋を後にしていく。全く、ナナは私に逆らわない本当に良い子だ。一方でそれとは対照的な女の顔が、私の脳裏に浮かぶ。


「…シンシア、あんたの思い通りになどしてやるものか…」

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